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2023
11
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調査研究部

漁村計画の参考図書が公表されました

はじめに

令和5年7月に「漁村計画の参考図書」(以降、参考図書とする。)が公表されました。この参考図書は、住民参加を前提とし、市町村が自主・自発的に漁村の中長期的ビジョンを策定することにより、将来的に目指す漁村の姿を関係者間で共有した上で、目指す姿の実現に向け、体系的かつ効果的な個々の施設整備につなげていくことを目的に作成されました。
参考図書は、市町村の皆様が、豊かで活力ある漁村づくりに向けて現状や課題を総括的に整理・認識した上で、20 年後を目途とした長期的構想(「漁村構想」)を策定するとともに、漁村構想の中から優先度の高いハード整備を抽出・整理した10 年後を目途とする基本計画(「漁村基本計画」)を策定することで、目標とする漁村づくりを確実に進めていくことを前提とし作成されています。
ここで、全国の市町村や漁村の置かれている状況は多様であることから、それぞれの地域独自の状況に応じて最も適切と考えられる構想及び計画手順を選択する柔軟性が必要です。漁村計画を検討・策定する際の参考資料や辞書的な情報として本参考図書を活用いただけるものと考えます

漁村計画の意義と体系

わが国の漁村を取りまく状況は年々きびしさを増しており、加えて、南海トラフ地震に代表される大規模自然災害や、海業振興による地域振興が新たな課題として認識されています。
一方で、官民が主体となり、ソフトと連携したハード整備に継続的に取り組んできた経緯がありますが、必ずしも必要十分な効果を発揮できていない部分もあります。
その一因として、これまでのハード整備が、漁村振興を構成する多種多様な問題を長期的・構造的に捉えることが十分でなかった点が挙げられます。
このような状況に鑑み、水産業及び国民共有の多面的機能の発揮などの面で重要な役割を果たす漁村の将来的な維持・発展に向けて、適切かつ有効な個別施設整備を推進するためには、それぞれの漁村で、長期的な漁村ビジョンである「漁村構想」及び中期的な「漁村基本計画」を策定することが有効です。
更に、「漁村基本計画」に含む個別施設の検討概要は、これら長期的構想と「漁村基本計画」の目的や方針などと整合することで、漁村の目指す将来像の達成に、効果的かつ具体的に寄与することとなります。
参考図書においては、これらの「漁村構想」及び「漁村基本計画」を「漁村計画」と定義しています。「漁村計画」策定において長期を見据えた漁村の目指す将来像を描きつつ、中期的な漁村の目指す姿を具体化する個別施設の事業計画につながる視点が重要です。
従って、今後、長期的で総合的な漁村ビジョンを実現するハード整備の取組により、必要十分な効果を得るため、すべての漁村振興ハード施策の基本となる、漁村の目指すべき将来像を個別施設の事業計画につなげていく道筋を地域の合意の上で「漁村計画」として策定し、関係者間で共有する必要があります。
全国で、持続的漁村維持と振興に向けた「漁村計画」、つまり、将来に向けた理想とする将来像づくりが、行政や地域住民により自主・自発的に進められることが期待されています。
図1及び表1に一般的なアプローチイメージを示します。

「漁村計画」の体系の一般的アプローチイメージ

図1 「漁村計画」の体系の一般的アプローチイメージ

表1 各段階での取り組み概要(一般的アプローチイメージ)

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区  分 アプローチイメージ
漁村計画 漁村構想 〜漁村の長期的なビジョンの作成〜
水産業振興、生活環境整備、大規模災害対策、海業振興を主要項目(※地域独自のその他項目も含む)とした、20年後を見通した漁村の将来像を描く。
ハードだけでなく、ソフト含め総合的に検討するもので、主要項目毎の「漁村構想」と「漁村構想図」(ゾーン区分図)をセットとしてとりまとめたもの。
漁村基本計画 〜中期的優先ハード整備の全体像の整理〜
「漁村構想」達成に資する優先度の高い構想を実現するため、ハードに関する中期的(概ね10年程度)かつ具体的な全体像や個別施設の整備方針・数量等の概要などを策定するもの。
個別施設の事業計画・整備 「漁村基本計画」に位置付けたハード整備について、個別施設の事業施設の事業計画に基づき整備を実施する。

参考図書の位置づけと構成・運用

参考図書は、自らの関わる漁村地域の将来にわたる維持・発展について、行政と漁業者他地域住民など取組主体が、自主・自発的に「漁村計画」を検討策定する際に、参考となる事項をまとめたものになります。
上記観点から、参考図書は長期的視点の「漁村構想」及び中期的視点の「漁村基本計画」に関する検討・策定方法や留意点について述べられている部分(第1編、第2編)と、個別施設の概要・方針検討や、最終的な個別施設の事業化検討に資する個別施設の事業計画策定の方法と留意点を述べた部分(参考資料編)から構成されています。
一方、参考図書で述べられている内容は、あくまで各地域の取組の参考に資することを目的としたものであり、それぞれの主体が、漁村の将来ビジョン策定に向けた認識と自主性に基づく方法を柔軟に選択することが重要となります。
また、地域の自主・自発に基づく「漁村計画」は、地域総意の対象漁村地域の将来像であり、これが共有され、資料化されることで、他の施設整備事業申請の際に必須とされる前提条件の整理につながると考えられます。
「漁村計画」の趣旨は、長期的かつすそ野の広い漁村振興の将来像を関係者が共有しておくことにあり、必ずしも一直線の時系列で考える必要はなく、地域の実情に応じた柔軟な着手と運用が求められています。

参考図書の構成

図2 参考図書の構成

現実的取組ループとステップアップの考え方

図3 現実的取組ループとステップアップの考え方

おわりに

人口減少、高齢化、漁業者の減少が進む中、施設の再編やインフラの有効活用等により、地域資源や特性を生かした漁村振興を行うことが重要となります。
本参考図書により、漁村振興が促進され、漁村の目指す将来像が達成されることを望みます。

(第1調査研究部 葛西 隼平)

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