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- 2023
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ズワイガニ保護育成礁のしみ出し効果
はじめに
ズワイガニは、日本海西部海域の底びき網漁業の重要な対象種です。本種の資源回復のための一手法として、2007年から国が事業主体となり、ズワイガニが生息する海底に人工魚礁を設置し、漁獲を防止し、産卵・育成場を確保するための保護育成礁の整備(フロンティア漁場整備事業)が行われています。2022年度末には27群が整備され、一定の効果が得られています。1群の保護育成礁は、2㎞四方の範囲にコンクリート製や鋼製の魚礁を格子状に配置することを基本としています(図1)。また、保護区造成の考え方は、保護区内で一定期間保護された資源が周辺海域にしみ出したものを漁獲対象とするものです(図2)。これらのしみ出し効果の範囲は、既往知見によると保護区周縁部から約3マイル(5.6㎞)とされています。そこで本稿では、日本海西部地区の整備済の保護育成礁において籠による採捕を行い、しみ出し効果範囲の検討を行った結果について報告いたします。
内容
調査は2022年6月13~17日に兵庫県但馬水産技術センターの漁業調査船「たじま」を傭船し、但馬沖漁場第2保護区(水深272m)から北東方向の対照区(同一水深帯の砂泥底)に向けて直線上に籠を連続的に6連、さらに保護区内の端部の1連を加えた計7連を設置し(図1)、ズワイガニの採捕状況を記録しました。
使用した籠の仕様は、底面直径130㎝、高さ47㎝、開口部40㎝,目合10節(34mm)です(図3)。1連の籠数は20籠(約2km)、各籠の間隔は100m、餌には冷凍サバを各籠4尾使用し、浸漬時間は1昼夜(8時間以上)としました。入網したズワイガニについては船上で籠毎に雌雄別(雌は成熟段階別)に個体数を確認し、甲幅及び甲幅60mm以上の雄は鉗脚(はさみ脚)幅を測定しました(図4)。雄は甲幅と鉗脚との関係から最終脱皮の有無を、雌は腹節に外仔卵を有する個体を成熟個体としました。
結果と考察
籠の設置連別のズワイガニ採捕密度の結果から、雌雄別の入網密度に着目すると、いずれの地点においても雌よりも雄が卓越していました(図5)。また、保護区や保護区縁辺から0~2kmの地点において、雌雄とも出現密度が高い傾向を示していました。
甲幅組成をみると雄は甲幅30~150mmの稚ガニから成体ガニが入網しており、最終脱皮前個体の占める割合が高い傾向を示しました。雌は甲幅32~98mmの稚ガニ~成体ガニが入網しており、若齢個体の入網が多い傾向がみられました(図6)。
保護区内の2連を含めた最遠地点までの籠別雌雄別の入網状況について整理しました(図7)。雄は、籠を回収できなかった1地点を除き、全ての籠に入網していました。出現密度は保護区縁辺から1.4kmの23尾/籠が最大であり、最小は9.3km地点の2個体/籠でした。また、これらの近似曲線に着目すると、保護区から離れるにつれてゆるやかに減少傾向を示しました。前述の通り、既往知見では保護区周縁部からの累積採捕率が50%を超える距離は3マイル(5.6㎞)としていますが、今回の調査結果にあてはめると4.6kmに相当しました(図7)。
雌は雄に比べると全般に低密度であり、保護区内の16尾/籠が最大でした。また、保護区内では全籠に出現しましたが、それ以外の地点では1連につき3~8籠で入網ゼロの地点もみられました。また、これらの近似曲線は雄と同様に保護区から離れるにつれて減少していることに加え、雄よりも減少率が大きく、しみ出し範囲が小さいことが示唆されました。また累積採捕率が50%を超える距離は3.7kmでした。ズワイガニの入網状況は水深や潮流が影響するため、籠の設置方向によってもしみ出し効果範囲は異なることが予想されます。
おわりに
今回調査した但馬沖は水深が約270mであり、ズワイガニの生態を考慮すると雄が卓越する海域での結果と考えられます。今後も異なる漁場や水深帯で同様の調査の実施により知見を集積して、しみ出し効果範囲について検討・評価していきたいと思います。
(第2調査研究部 部長 三浦 浩)