ウェブマガジン

2022
11
TOPICS
調査研究部

操業日誌を用いた築磯におけるイセエビの資源量の推定

はじめに

わが国では、資源管理の推進が図られており、「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」(2020年9月、水産庁)では、資源評価対象魚種について、2020年度に67 種から119種に、2021年度には200種程度に拡大する方針が示されました。そのうち2020年度に追加された資源評価対象種(52 種)の一つにイセエビが挙げられています。
高知県黒潮町(佐賀地区)では、低迷するイセエビ資源の回復を目的に、2018年に新たに築磯が整備されました。イセエビの分布を把握する方法の一つに潜水士による目視観察があります。目視観察では、その分布状況を視覚的に詳細に把握することができる一方、潜水時間の制約により、観察範囲が限られてしまいます。また、イセエビは夜行性であり、特に日中には岩の隙間に分布するため、見落とす可能性も高くなります。そこで、築磯におけるイセエビの分布量を定量的に把握するとともに資源管理を行う上での基礎資料を得ることを目的とし、漁業者に操業記録を記帳して頂き、その記録からDeLury法により築磯別の初期資源量を推定しました。また、築磯におけるイセエビと付着動物の経年変化について整理したので併せて紹介したいと思います。

調査概要

⑴ 調査場所

高知県黒潮町熊野浦沖において、2018年3月に水深25mに設置されたスラグ人工石材の築磯(以下、「実験区」という)、既設の築磯である通称「げんみ」および「ごろかんテトラ」で調査を実施しました(図1)。

調査海域

図1 調査海域

⑵ 標本船調査

実験区、対照区および既設の築磯に分布するイセエビの分布量を把握するため、当該海域で操業するイセエビ建網漁により、イセエビ(成エビ)を採捕しました。
黒潮町・高知県漁業協同組合の漁業者に操業日誌を配布して、出漁日、操業場所、漁獲量等の記入方法について説明し、記入していただいたものを回収しました。回収した日誌から漁場別に、努力量、単位努力量当たり漁獲量(CPUE: Catch per Unit Eff ort)およびイセエビ漁獲量等を整理しました。調査期間は、解禁となる2020年9月15日から2か月程度としました。

⑶ 潜水目視観察調査

実験区、対照区および既設の築磯におけるイセエビ(成エビおよび稚エビ)の分布場所、分布状況を把握するため、潜水士により目視観察しました。

⑷ 餌料生物調査

実験区、対照区および既設の築磯におけるイセエビの餌料環境を把握するため、付着動物を採集、分析しました。

調査成果の概要

⑴ イセエビの漁獲状況、資源量の推定

累積漁獲量とCPUEに負の相関が確認された築磯について、DeLury法により資源量を推定しました。漁期前の初期資源量は、5.竜宮72kg、6.久保浦91kg、7.とうへん16kg、8. 割石89kg と推定され、漁期後の残存資源量は、5. 竜宮23kg、6. 久保浦39kg、7. とうへん0.1kg、8. 割石32kg と算定されました(図2)。

DeLury法による初期資源量と残存資源量

図2 DeLury法による初期資源量と残存資源量

⑵ 築磯におけるイセエビ、餌料生物の経年変化

2018年に比べ、2019 年ではイセエビの密度が増えていました(図3)。目視観察では、2018年の調査では着底後の稚エビが多かったのに対し、2019年では1齢のイセエビが確認され、2018年に着底した個体が成長したものと考えられます。また、イセエビの餌料となる甲殻類や小型の貝類を含む付着生物は、個体数、湿重量ともに前年に比べ2019年では増加していることが確認されました(図3)。
より長い期間での築磯におけるイセエビと餌料生物の変化をみると、築磯設置から時間が経つほど、付着生物およびイセエビのCPUEが増加する傾向がみられました(図4)。
既往の調査では、構造物の設置後約3年の間に付着生物は著しく増加するとされています。設置からの期間が短い実験区や対照区では、今後イセエビの餌料となる生物がさらに付着し、イセエビが増殖することが期待されます。

実験区におけるイセエビと付着動物

図3 実験区におけるイセエビと付着動物

築磯の経過年数とイセエビ・付着動物の関係

図4 築磯の経過年数とイセエビ・付着動物の関係

おわりに

操業日誌は、漁場ごとの漁獲量や整備した漁場の効果を把握する上で有効な資料となります。また、イセエビや埋在性二枚貝類のように着底後の移動をあまり考慮しなくていい生物種の場合、操業日誌を整理・解析することで、漁場ごとの資源状態を把握することができます。操業日誌の記入方法等について漁業者の寄り合いの場で打合せをした際、漁業者の間では、一部の漁場に禁漁期間を設定すること等についても協議されていました。今後も、操業日誌を記録し、漁場ごとの残存資源や翌年の初期資源の情報を積み重ねることで、禁漁区や禁漁期間、漁獲量等を設定し、持続可能な漁業を実現することが望まれます。

(第2調査研究部 當舎 親典)

PAGE TOP