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- 2022
- 11
気候変動に対応した漁港海岸整備のあり方
はじめに
将来の気候変動による影響を踏まえた海岸保全基本方針の変更(令和2年11月20日)が行われ、海岸管理者は海岸保全基本計画の変更と気候変動への対応を進めていく必要があります。漁業地域は、狭隘な地形が多いため、気候変動の影響を受けやすく、都市と比べ、過疎化・高齢化が進んでいることや、前面の漁港・漁場の利用との一体性を考慮する必要がある等の特徴に留意しながら気候変動対応を進めていかなければなりません。本報では、表1のような特徴を有するモデル漁港海岸を事例とした気候変動(外力変化)による海岸保全施設への影響について報告します。
外力要因 | 平均海面低気圧 |
---|---|
拠点漁港 | 生産 |
施設整備 | 胸壁 |
立地特性 | 前面に漁港漁業集落 |
調査内容
⑴ 気候変動の影響を反映した外力設定
設定した外力は、外力上昇による影響を分かりやすくするために、50年後の外力変化を対象として、簡易的に設定(図1参照)しました。平均海面の上昇量は、気候の2℃上昇の平均値(条件-1)と上限値(条件-2)および4℃上昇の上限値(条件-3)の3パターンとし、高潮偏差および波高の増大は、それぞれ21世紀末に現行の設計条件の1.2倍および1.3倍へ増大すると仮定しています。
⑵ 外力変化による影響評価
定量的評価として、現行施設を対象に、気候変動による外力変化に伴う浸水範囲、浸水深を算定した結果を図2に、海岸事業の費用便益分析指針に基づいた50年後の外力による被害額を試算した結果を図3に示します。浸水範囲は、30年後を越えたあたりから拡大範囲が大きくなっています。被害額については、条件-3では、0.45m(床下浸水と床上浸水の境界値)以上の浸水高が発生していることから、他の2つの条件よりも大きく算出されています。
⑶ 外力変化に適応した対策断面の試設計
50年後の将来外力に対する試設計の例として、図1に示した外力設定による気候変動へ適応する対策断面の例を図4に示します。各条件の必要天端高は、現況天端高から、それぞれ0.6m、0.8mおよび1.0mが不足量となったため、天端高の嵩上げとして対策断面を検討しました。
適応整備の考え方
限られた予算の中で、気候変動に適応した対策を講じる必要があることから、適応整備にあたっては、段階的に優先順位を設定した対策が必要です。対策時期の目安として、浸水範囲(図2参照)を参照とした場合は、各条件で30 年後から上昇し、40年後から大きく上昇する様子が確認できます。気候変化の不確実性を勘案すると、気候変動適応策の目安として40 年後がひとつの目標と考えられます。
おわりに
漁業地区では、少子高齢化による将来的な地区人口(世帯数)の減少や漁業生産量の変動に対して、浸水被害額においても現状よりも変化することが予想され、地区人口や漁業生産量の将来予測の方法やその予想結果を被害評価に反映する手法も今後の課題となります。
なお、本報は「令和3年度海岸保全施設設計等技術検討調査委託事業」(水産庁)の成果の一部をとりまとめたものです。
(第1調査研究部 岩瀬 浩之)