ウェブマガジン

2023
11
NEWS

トーク&トーク
『まちに元気を!~全国発、まちおこしに向けた都市漁村交流の可能性とあり方を探る~』を開催しました

令和5年8月1日に漁村総研が事務局を行っている都市漁村交流推進協議会主催の「トーク&トーク まちに元気を!」が開催されました。人が実際に行き来するのではなく、水産物を介して漁村と都市がつながっていく未来を願い「都市の「食べる」が漁村を救う~水産物が拡げる関係人口」をテーマに実施しました。以下に概要を報告します。

開催概要

日時 令和5年8月1日13:30~15:00
場所 エッサム神田ホール1号館 3F 大会議室
※オンライン(ZOOM)との併用

プログラム

『都市と地方をかきまぜる:ポケットマルシェで関係人口を増やす』
高橋 博之(株式会社雨風太陽 代表取締役)
『未利用魚を活用したサブスク「Fishlle!(フィシュル)」について』
井口 剛志(株式会社ベンナーズ 社長)
『離島での販路開拓:くら寿司との一船買い契約で若手漁師の収入を3倍に』
塩見 尚徳(愛媛県漁業協同組合魚島支所 支所長)

主催者挨拶

藤本 昭夫 大分県姫島村長 都市漁村交流推進協議会 会長

本日は、令和5年度「トーク&トーク」にご参加いただき、ありがとうございます。本協議会の活動の一環として、漁村の活性化に大きな力となっております、都市漁村交流の展開方策を探るための意見交換の場として関心をお持ちの皆様にご参加していただき、開催しております。
今回は、「都市の「食べる」が漁村を救う~水産物が拡げる関係人口」をテーマにし、人が実際に行き来するのではなく、水産物を介して漁村と都市がつながっていく未来を願い、水産物を食べることで拡がる漁村での関係人口について考える場にしたいと考えております。本日の講演内容が、今後の皆様の活動の一助となれば幸いであります。

来賓挨拶

櫻井 政和 水産庁防災漁村課 課長

水産業や漁村をとりまく環境は海洋環境の変化による不漁の長期化、漁業者の高齢化、人口減少、コロナによる行動様式の変化など近年大きく変化しています。今年5月にコロナによる社会的制限が解除され、交流活動の再開が期待されています。水産庁では漁港漁村の持つ地域資源を活用し、漁村地域の活性化や漁業者の所得向上を図っていくことは我が国の水産業の成長にとって極めて重要なものであります。昨年3月には、水産政策や漁港漁村の整備にかかる新たな基本計画において、今後、「海業」を漁港漁村で展開し、地域のにぎわいや所得と雇用を生み出すとともにポストコロナを見据えた渚泊やワーケーション等の交流人口、関係人口の増加への取り組みを推進し、5年間で都市漁村交流人口を200万人増加させるということを目指しております。本日のシンポジウムのテーマである関係人口ですが、観光等で地域を訪れる交流人口から一歩踏み込み、地域づくりへの参画など多様な形で地域と関わる人々という風に聞いております。本日お話をいただく、食を通じて関係人口の増加に取り組む方々のご講演を大変楽しみにしております。最後に、本日のシンポジウムが都市漁村の交流活動や地域活性化に取り組む皆様にとって有意義になることを祈念いたしまして挨拶とさせていただきます。

講演内容

  • 高橋 博之
  • 『都市と地方をかきまぜる:ポケットマルシェで関係人口を増やす』
    高橋 博之(株式会社雨風太陽 代表取締役)
高橋 博之

去年から我々の会社では親子地方留学を始め、今年は北海道、岩手県、和歌山県、京都府、福岡県の5箇所でやっています。例えば、和歌山で言うと、親御さんはパソコン1台持って昼間仕事をする。その間お子さんを預かって漁師の元へ行ってマグロの餌やり体験等の様々な海の体験をするということをやっています。
日本は1980年代にグリーンツーリズムとして都会の人を呼び込んで地域の力にしていこうと始まりましたがうまくいきませんでした。要因としては、これまでの日本の観光は1泊が多く、一度来たらもう二度と来ることは無く、消費されるだけで交流になっていませんでした。そのことから親子地方留学では1週間としています。1週間いたら生産者と仲良くなり、お手伝いし、農漁業の厳しさの一端にふれることで良き理解者として都会に戻り、良い関係性ができます。
都市と地方をかきまぜるという言葉を使っていますが、農村漁村と都市は生み出している価値が違います。同じものさしで測って優劣競えば都会が好都合になります。お互いが補う関係をいかに作っていけるかが大切です。
全部の魚とお客様を繋げるのは無理だとわかっていますが、1割でも5%でもちゃんとお客様と繋がって手間をかける漁業をすることが買いたい動機になります。これから関係人口というのは非常に重要になってくると思います。水産庁も海業を始めましたが、みんなで力合わせてやっていければと思います。

  • 井口 剛志
  • 未利用魚を活用したサブスク「Fishlle!(フィシュル)」について』
    井口 剛志(株式会社ベンナーズ 社長)
井口 剛志

ベンナーズは福岡県の水産系のベンチャー企業です。元々は全国の漁協や養殖業者や仲買と回転寿司の企業をつなぐBtoBプラットフォームの事業をしていました。コロナで売り上げが減少し、新たな事業を始めました。まず、水揚げの30%程が未利用魚である現状と深刻な魚離れに着目しました。しかし、回転寿司の市場規模は非常に好調です。そこで、魚嫌いではなく、魚を調理することから離れているのではないかと仮設を立てました。未利用魚を有効活用し、誰でも簡単に美味しい魚料理をご家庭で楽しめるようにすれば双方の問題解決できるんじゃないかという風に思い始め、「Fishlle!」を生み始めました。
現在、全国8ヶ所の工場で委託製造の商品を作っていただいております。全国の水産加工場の空きキャパシティの有効活用や、未利用魚の有効活用を推し進めていければということで今も引き続き協力工場や協力していただける漁協を探しているという状況でございます。
クリエイティブな思考を取り入れることでまだまだ日本の水産業界には拡大していく余地が確実に残されているという風に思っております。私1人ではなくて業界全体で水産業界を盛り上げていければと思っております。

  • 塩見 尚徳
  • 『離島での販路開拓:くら寿司との一船買い契約で若手漁師の収入を3倍に』
    塩見 尚徳(愛媛県漁業協同組合魚島支所 支所長)
塩見 尚徳

魚島は芸予諸島にある愛媛県越智郡上島町に属する有人離島です。古くから漁業で栄え、採れた魚の多くは関西に出荷されていました。島の面積は1.49平方km、周囲6.5km、歩いて約40分で一周できてしまう小さい島です。昔は漁業で潤っていましたが1986年をピークに瀬戸内海の漁獲量が減少へと転じていきます。魚島の漁協も販売事業から撤退し、買い付け業者に任せてしまうような営業形態になり、魚島の漁業は衰退の方向へ舵を切りました。
魚は、複雑な流通経路のもとに届きますが、一船買いは漁師が獲ってきたものは直接くら寿司へ、くら寿司は直接消費者へと。獲る側、売る側、消費側と単純明快な経路を作ることができるようになりました。また、漁業者のメリットですが、漁獲物の全量を契約単価で買い取ってもらい、契約することによって1年中の単価が変わらずに収入が安定し、高い単価で買い取ってもらえる。くら寿司さんに直接魚を卸すことにより消費者の顔が見えた漁師の仕事に対するモチベーションがアップしました。そして、安定した収入+αの金額が発生することになり、漁師の所得の3倍へと持って行くことができました。
現在、組合員数が減少しています。今度はこの魚島の漁業をどうやったら守っていけるのかを考えるようになってきました。2022年から新規漁業者の受け入れを開始することになりました。今度は漁師が自分たちの島の未来を繋げていくことも考えてくれるようになった、これが私にとって一番の魚島の成功ではないのかと感じております。

閉会挨拶

髙吉 晋吾 漁村総研理事長・都市漁村交流推進協議会 事務局

本日は多くの皆様にご参加いただきありがとうございます。現在、水産業と漁村は非常に厳しい状況にあります。そこで漁業者と消費者が顔の見える関係を作り、限られた資源を無駄なく有効に活用し、美味しく食べることによって漁村に都会のお金が流れていきます。都会と漁村はお互い支え合う仕組みが一番重要だと思いました。このように困難を乗り越える可能性があると強く感じました。本日の講演を参考にしていただき、地域から様々なアイディアを出し、活性化の取り組みが進むことを期待したいと思います。都市漁村交流推進協議会では今後も皆様のお役に立つような情報提供に進めてまいります。引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

(第1調査研究部 海老原 碧)

PAGE TOP