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2024
6
パネルディスカッション

どうする?水産
~気候変動に対する適応について考える~

1イントロ

岩本 ただ今より、パネルディスカッション「どうする?水産~気候変動に対する適応について考える~」を開催します。本パネルディスカッションのコーディネーターを務めて頂きますのは、先ほど基調講演をして頂きました北海学園大学経済学部教授の濱田先生です。ここからは濱田先生に進行をお譲りしたいと思います。よろしくお願いします。

濱田 武士 氏
濱田 武士
北海学園大学経済学部 教授

濱田 それではまず、本パネルディスカッションの趣旨説明をさせて頂きます。
気候変動による海洋環境の変化には、海水温上昇、海水面水位の上昇、それと海洋酸性化、気象災害の激甚化があり、この他、高潮、高波、波高変動、鉛直混合の弱化等が挙げられます。その結果、魚介類や藻場の分布といった生物層が変化して、これに伴い漁獲や流通に影響を及ぼすものと想定されます。
地球温暖化に対しましては、緩和策として漁船等の省エネ化や藻場造成によるCO2吸収等により温室効果ガス濃度の上昇を抑制するための対策、或いは、いわゆる緩和策を取るとともに、それでも引き起こされる変化に対して、ハード的・ソフト的な対応策を講じることが重要だということは言うまでもありません。
本ディスカッションでは、現場で気候変動に対応されているパネリストから、今直面している状況や課題をお話しして頂くとともに、今後の漁場整備や流通戦略といった気候変動に対する水産業における適応策について意見交換して、方向性を見出したいということで、なかなか結論は出ないかも知れませんが、こういう方向性で話を進めていきたいと思っています。
パネルディスカッションについて、大まかな流れをご説明致します。最初に気候変動による水産業の影響について、イメージを共有したいと思います。2つ目に、実際に現場で起きている気候変動の影響について理解を深め、その上で3つ目として、気候変動に適応するために行政ができること、やるべきことを議論したいと思います。最後に、総合討論で気候変動に対応する適応の方向性について議論したいと思います。
本パネルディスカッションで取り扱う気候変動について、一つお断りがあります。冒頭にご説明したとおり、気候変動による理化学的な影響については複数の変化がありますが、ここでは主に水温上昇が水産業に及ぼす影響について取り扱うこととさせて頂きます。
限られた時間となりますので、例えば藻場・干潟への影響等については原則的には対象としないということで、ご了承頂きたいと思います。議論が発散しないように、できるだけ水温上昇に関連したところでまとめていきたいと考えていますので、質問等におきましてもその点をご理解頂ければと思っています。
それでは最初に、気候変動による水産業への影響についてイメージの共有を図るということで、水産庁の漁政部企画課の山本さんから、お話し頂きたいと思います。

2気候変動による魚種の分布や漁業の変化

山本 隆久 氏
山本 隆久
水産庁 漁政部企画課 課長補佐

山本 私の方からは水産庁で開催した検討会の内容を中心にご紹介させて頂きます。近年の気候変動等を踏まえまして、今年の3月から5月まで、海洋環境の変化に対応した漁業の在り方に関する検討会を開催致しました。資料は全て水産庁のホームページに掲載していますので、そちらもご覧頂ければと思います。
長期的にわが国の漁獲量は減少傾向にありますが、特に2014年頃から大きな変化が現れ始めており、2014年と比較して、2022年は全漁獲量で22%減少しています。その減少分のうち約8割がサケ、サンマ、スルメイカであり、3魚種の減少が大きく影響しています。
この100年間で北太平洋の水温は上昇傾向で、特に日本近海の水温が上昇しています。また、海洋熱波という現象が発生しています。加えて、海洋貯熱量をみると、1960年代から、どんどん海に熱がたまってきているといった状況にあります。

海面水温等の変化

そのため、サケ、サンマ、スルメイカといった比較的表層で泳ぐ魚だけではなくて、中層域、深海域で生息する魚類にとっても影響が出てきていることが考えられます。
また、親潮の元となるオホーツク海の流氷がどんどん生産されなくなってきています。1980年代には春季は茨城県ぐらいまで親潮は南下していましたが、今では青森や北海道ぐらいまでしか下りてこない状況になっています。東北の福島県以南の底層水温も少しずつですが上昇傾向にあります。
このような流れの中、2020年にカムチャッカ半島で大規模な赤潮が発生し、その翌年には北海道で大規模な赤潮が発生して、大きな漁業被害がもたらされました。この原因も海洋熱波によるのではないかといわれています。
次に、資源や漁獲への影響についてお話をさせて頂きます。
サンマについては、ロシア水域から日本水域に回遊してきたものを獲るというのが従来のサンマの漁業のスタイルでしたが、水温が上昇してきたことで、サンマの回遊経路が沖合を通るように変化し、日本やロシアのEEZではなくて、公海に漁場が張り出し、そこで中国や台湾といった外国漁船に漁獲されることで、大きく資源が減少している状況です。
スルメイカの秋季発生系群の産卵場は東シナ海、日本海南部にありますが、そこの産卵期の水温が従来よりも1から2℃高くなっており、生き残りが悪化しているのではないかとされています。
サケにつきましても、放流しても海が熱くて稚魚の生残が悪くなっております。今年も北海道、日本海側は例年の3割ぐらいしか漁獲がなく、本州の太平洋側については漁獲がほとんどない状況です。
こういった現象は日本だけではなくて、アメリカやカナダといった地域でも起きています。ズワイガニの太平洋北部系群は、東北の太平洋側では、もう資源管理をしても回復しないのではないかというぐらいにまで減少していますが、ベーリング海、アラスカのほうでは2022年、2023年は禁漁というぐらいの強い措置が講じられています。なお、ズワイガニについては、海水温の上昇で代謝が増加し、結果的に餓死が起きていることが『Science』で発表されています。
一方、増えている魚には、マイワシやブリがあります。ブリは今では北海道のみならず、ロシアでも漁獲されるようになっており、ロシアではTACが設定されるようになりました。また、分布が北方にシフトしつつある資源として、タチウオやフグ、ガザミいった魚の生息域が少しずつ北上しています。

増加傾向にある資源

このようなことから、サンマやイカといった一つの魚種に頼るだけではなくて、複数の魚種を獲りましょうということや、養殖と兼業しましょう、またそれに合わせて加工・流通も変えていきましょうといったことを提言として取りまとめています。
アメリカでの対応としては、災害により収入が35%以上減少すると補填金が出るといった制度があります。ただし、申請から給付まで5年間ぐらいかかるということで、生物学的調査の充実、複数魚種の操業や海面養殖など代替となる生計手段の導入支援といったことを検討しているようです。アメリカも手探りですが、日本と考えていることは大体同じようなことになっているようです。

濱田 主に北日本でブリやフグなどが獲れるようになったり、その弊害等もお話しいただきました。また、アメリカでも同じようなことがあるということでした。山本さんから今ご紹介があったのは、目立った事例ではありますが、何か他にもこういう変化というものがないかということで、パネリストの方からご紹介頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。

三宅 道南のほうではカマスが釣れたり、釧路沖でカツオが水揚げされたり、ブリのモジャコが見られたりということで、非常に変わった状況です。マフグについては、以前も日本海のほうではたまに漁獲されることがあって、漁業者から売り方などを相談されたことがありました。当時は単発で終わっていたのが、最近では山口県まで出荷されているという状況で、これも割と新しいのかなと感じました。

濱田 北海道では確か道東の定置でもシイラも水揚げがあったかと。

三宅 1990年代にブリの当歳魚が取れていた時にもシイラは割と入っていたのですが、あまり扱いが良くなくて、市場に揚がっても見向きもされていませんでした。

濱田 西の方についてもお話を聞きたいのですが、何か情報はありませんか。

伊藤 先般、五島に調査に行きましたら、五島の海も「沖縄の海化」しているようで、漁獲が落ちている上に、取れる魚も赤い魚、青い魚が増えてきているということを漁師の皆さんが仰っていました。また、瀬戸内海などでは、キジハタは幻の魚と昭和の最初の頃はいわれていたのですが、今ではメバルと魚種交代して非常に増えています。

濱田 今日のパネルディスカッションでは、北日本での話が多くなりますが、水温上昇に伴う魚種変化は日本国中で起きており、今日の議論も、北日本だけのためにやるというわけではないということを改めて確認しておきたいと思います。

3実際に現場で起きている気候変動の影響

阿部 誠二 氏
阿部 誠二
宮城県漁業協同組合 青年部 部長

濱田 では次に、実際に現場で起きている気候変動の影響について、議論を進めたいと思います。まず、宮城県漁業協同組合の阿部さんからお話を聞きたいと思います。我々は水揚げされてきたものを見たり、時折現場に行って船に乗せてもらったりすることもあるのですが、毎日海に出ているわけではありませんから、現場の実感というのは掴み切れないのですが、漁業をされている阿部さんは、その辺をものすごく実感されておられるかと思います。
阿部さんはよくテレビに出られて、もうおなじみの漁師になっています。私も震災後から現場で阿部さんと知り合いになりまして、今日久しぶりにここでお話しできることをとても楽しみにしていました。まず、阿部さんの出身の石巻についてお話を聞きたいと思いますが、場所やどのような漁業をやっていたかというお話をお聞かせ頂けないでしょうか。

阿部 私が漁業を営んでいるのは石巻の鮫浦という、牡鹿半島の北東側のすごく小さい浜です。ホヤやホタテの養殖が盛んで、物心がついた時には父親がホヤの養殖をメインに、冬場はマダラの刺し網をやっていました。
ホヤ養殖は冬場にはあまり作業がないので、閑散期の収入としてマダラの刺し網を長年やっていたのですが、震災後、ホヤ養殖が出荷するまでに3年ほどかかる間にヒラメが豊漁だという話を聞いて、夏場のヒラメの刺し網も始めるようになりました。タチウオの漁獲量が宮城県でも増えていたので、知り合いの漁師というか仲間に教えてもらって、引き縄漁という漁で漁獲しているところです。今年で4年目になります。あとは、冬場のタラが減ってきた中で、今度はキアンコウが増えており、これから期待したいなと思っています。

濱田 親から継いだ漁で、ホヤ養殖でしたら、ある程度作業が繰り返しなので、いろいろ工夫もされると思いますが、刺し網などの漁船漁業となってくると、そうはいかないと。漁場や水深を当てたり、ゼロから始める魚となると、いろいろなところでご苦労があったと思いますが、その辺はどうだったのでしょうか。

阿部 マダラの刺網をやっていたので、ある程度知識はあったのですが、夏場のヒラメに関しては先輩漁師のヒラメを獲るプロの方々に目合いから水深から漁場からいろいろ、教えてもらってやって、今は自分で考えた漁具を使ったりしています。

濱田 タチウオは引き縄でとのことでしたが、これはすごく大変ではないですか。

阿部 タチウオは、どうやって獲るのだろうというところからだったのですが、北九州に仲間がいまして、その仲間とSNSで何気なくチャットをしていたら、こちらでタチウオが釣れているよという話の中で、あちらでは引き縄という漁法をやっているよというのを聞いて、それを挑戦してみようかなと思って、道具の仕様から調達場所まで全部教えてもらって、今やれています。

濱田 漁師同士というのは、地元ではライバルだったりするので、技を教えてもらうのはなかなか難しいと思うのですが、九州の人と仲良くなったという、人と人のつながりというのがあって、そういうことができるようになったのかなと思ったのですが。今後この漁船漁業で新たな魚種、今度魚種が交代していく中で、対象種も増やしていったり、交代したりということがあるかと思います。そういった中で何か意識されるということはありますか。

阿部 漁師なので大漁になるのはもちろん嬉しいのですが、量だけを目指せば、うちのような小規模な漁業者の場合は、大規模な漁船とは並べません。そのため、量より質というか、人より多く獲ることに重きを置くのではなくて、自分の獲った魚をおいしいと思ってもらい、それが評価につながって、価格につながるという流れを自分の中では優先しています。

濱田 例えばヒラメでの取り組みをお伺いしたいのですが、いかがでしょうか。

阿部 ヒラメは、「活け越し」をやっています。東北の方で夏場に魚を生かすというのは難しく、苦労します。普通だと夜中に獲って、朝方運んで水揚げするのですが、うちは一晩以上活け越して、魚を回復させて元気な状態に戻してからというのをやりたかったので、当時の補助金を使いました。活魚輸送用のトラックに積み込めるタイプのタンク、5トンの水槽で、これに一晩以上は活け越して、状態を良くして持っていきます。それを毎日続けていたら、市場での評価も上がりました。毎日、市場に朝早く起きて行かなくていいというので、体の負担もかなり減りました。

濱田 設備の投資は、ある程度はかかりますよね。

阿部 そうですね。補助金があったからですが、なかなかかかりました。

濱田 うまく補助金に乗れたということですが、マダラのほうはどちらかというと、鮮度を上げる取り組みだと思いますが。

阿部 マダラも漁獲量も減っている中、一大産地がいろいろなところにあり、その状況によってかなり値段が落ちてしまうこともあって、どうにかして価値を上げられないかということで、船の上でしかできない手当をやり始めました。マダラの場合は、生かすのが大変なので、船の上で生きて掛ってきたものを放血と神経締めをして、それがおいしいという評価を頂けました。放血と神経締めをした魚と野締めといわれる氷締めだけのものでは見た目でも違いが分かる程で、もちろん味にも影響します。今も料理人さんと話しながら、さらに締め方を工夫しているところです。

濱田 神経締めなどは難しいということですが、習得して、これだけ差が出るまで頑張られたということですね。

阿部 3シーズンぐらいは価格が変わらず、結果につながらなかったのですが、続けないと意味がないので続けていました。

濱田 最後にタチウオについてもお聞かせ下さい。タチウオというのは、よく身割れがするというか、非常にデリケートな肌質で、西日本の漁業者にとってはお得意のものでしょうけれども、東日本や北日本ではこういう魚はないのですが、これについてはどうでしょうか。

阿部 タチウオは、引き縄で獲るときも自分で極力触らないように、船のデッキにも揚げないようにしています。「脳殺」といって、最初に締めてしまうだけなのですが、一切傷がない状態にしたいので、もうその後誰も触らないように船上で目方まで量って、市場に並べています。

タチウオの船上における処理「脳殺」と箱詰め

今年はタチウオ自体も少なかったというのもあるのですが、一番の高値が付いたときにはキロ単価7,500円で取引されていました。また、名古屋でも評価されているということで、自分の目で状態を確認したかったので、着荷したものを確認しに行ってきました。

濱田 タチウオを船の上で計量されているというお話でしたが、これはどういうことなのでしょうか。

阿部 とにかくあまり触りたくないというのが本音なので、その場で釣り上げたものを1回締めたら、船の上で目方をかけて箱に詰めてというのを引き縄を上げるたびにやります。船の上なので、正確に量るのが大変で、いろいろな秤を試しているのですが、デジタルのものでは反応しなくなってしまう等、いまだに目方をかけるのに苦労しています。

濱田 船上で動揺している中で精度の高い計量をするのは本当に大変だと思うのですが、もしこの計量方法等でいい方法があれば、会場の皆さまやオンラインでお聞きの皆さまから情報を頂ければと思います。
漁獲する魚種の変化に対する適応やその課題について、非常に苦労されている実態が見えたかと思います。次に、漁獲種が変化する中で、水揚げされた後の取り扱いや加工場における課題や工夫について、三宅さんからお話し頂きたいと思います。

三宅 博哉 氏
三宅 博哉
公益社団法人 北海道栽培漁業振興公社 副会長

三宅 北海道の漁業生産をみると、令和3年ではホタテ貝が一番で44万トン、次いでイワシ約25万トン、スケトウダラがあって、コンブ、サケという順番になっており、この辺りが重要な主幹産業となっています。
また、最近ずっと減少傾向にあるスルメイカとサンマですが、毎年漁獲量が最低を更新しており、地域の漁業の生産、それから加工の生産体制の構造までも変えつつあるというような状況となっています。
マイワシとブリは増えていますが、マイワシについては、周期性のある増減を繰り返しており、温暖化の影響かどうか定かではありませんが、増えてきています。ブリについては、増えてきているのは確かで、2011年あたりから急激に増えてきています。2000年、2006年、2007年あたりでも若干漁獲量があり、これはサケの定置に入るブリでして、この頃はあまり大きなものが獲れておらず、フクラゲと呼ばれる小さいサイズのものが主体で、それほど注目もされていませんでした。2011年から急にたくさん獲れ始め、この頃になると7キロを超えるようなものもたくさん入り、秋サケ定置の邪魔者ということで、どちらかというと害魚のような形で非常に扱いが悪かったです。ただ、2007年頃から余市郡漁協では一部の業者がブランド化を目指して、築地のほうに直接送るようなことも行っていたようです。
平成30年から31年にかけて、道のほうで資源有効活用対策検討会を開催しまして、5つの対策が提言されています。1番としてイカの活用、2番ブリの活用、3番マイワシの活用、4番地域で漁獲される魚種の活用、5番フィッシュミールの製造等という、5つの項目に分けて提言されています。
北海道では、マイワシやブリを食べてもらおうということで、ホームページで「Oh!!さかなレシピ」等を公開しています。道総研でもマイワシ、サバ類を高品質のまま生食用商材として冷凍して、食用として利用拡大を目指すマニュアルを作っています。道産マイワシの鮮度保持技術、漁獲から流通まで、こういった研究も道総研で行っています。

利用拡大を目指すマニュアル(道総研)

ブリについては、余市郡漁協を始め複数の地域でブランド化が進められております。これは、ある程度大きくて上質なブリが継続的に獲れていることがあってのことなのかと思います。
函館にはスルメイカの小規模な加工場が多く、漁獲が減少しているスルメイカに代わってブリを使えないか検討もしたのですが、加工に使う機械が全く異なるため難しく、輸入イカに頼らざるを得ないとなりました。しかし、観光資源として函館で獲れるブリの消費拡大を図るため、函館ブリたれカツ、ブリ塩ラーメン、缶詰の開発に大阪経済大学と一緒に検討されております。
マイワシについては、水揚げ量がミール工場の数で決められることから、道内にあるミール工場の最大活用が重要となります。今年は非常に餌料が高騰しているということで、ミールの単価も高くなり、60円/kgという金額が付いて、漁獲量自体は25万トンなのですが、150億円という、32年ぶりに100億円超えということで現場も驚いている状況です。
たくさん獲れているものをいかに加工して消費拡大していく上での課題ですが、まず、冷凍庫のキャパが少ないということ、トラック不足が想定されます。また、最近は安定してブリが獲れてきていますが、漁師にとっては、まだ不安定という意識もあるようです。また、漁獲規模、単価がサケとは違うので、業界としてはサケの穴埋めにはなかなかならないというような意見もありました。このような課題がありますが、先ほどご紹介した函館のような地域的な取り組みが重要だと考えています。

濱田 三宅副会長から北海道の事例ですが流通加工業の適応状況や課題についてお話し頂きました。漁業、そして流通加工業に関連して、お二方からご紹介頂きましたが、こういった状況、あるいは取り組みが今後の気候変動の中で、より対策が加速していくというか、そういうことになろうかと思います。
民間活力で業界というのは成り立っていますので、産業の維持のためには民間の現場の努力というのはもちろんあっての話です。とはいえ、民間の手の届かない部分になってくると行政サイドの支援も必要になってくるかと思います。ハード面、ソフト面、どのように対応していけばいいのかということで、ハード面について、まず伊藤常務からお話し頂きたいと思います。

4気候変動に適応するために行政ができること、やるべきこと

伊藤 靖 氏
伊藤 靖
漁村総研 常務理事

伊藤 それでは、ハード面からお話しさせて頂きたいと思います。浮いている魚への気候変動の影響は大きく、サケやサンマ、スルメイカの話が中心でしたが、私の場合は魚礁性というのが関連してきますので、先ほどのブリやヤリイカ、それから西日本のほうのキジハタの事例をご紹介させて頂きたいと思います。
まず、ブリの事例です。この場合は構造物の構造の変化ということになります。例えば2015年に北海道の事業として、津軽海峡で行われていたのをみると、3メートルの高さの土管礁を1段積みにして入れていて、ソイやホッケを対象とした漁場造成が行われていました。近年ではブリが取れ始めているということで漁場整備の対策としては高層魚礁を中心に設置したり、ブロック礁を乱積みにして入れたりして、高さを求めたというのがブリの構造の適応策になります。

気候変動対応した漁場整備の適応事例

次にヤリイカの太平洋系群の話になります。南部系群の漁獲は減っているのですが、北部系群の漁獲量は増えている状況になります。ヤリイカの生息可能な水温帯は、それほど広くありません。青森や岩手県のほうでヤリイカの産卵が確認され始めていますが、量的にはまだ少ないのではないかと思います。青森県では日本海側を中心にヤリイカの産卵礁は非常にたくさん造成されていました。太平洋側の藻場ビジョンでも、ヤリイカの魚礁性を考慮した構造物を一緒に入れることでヤリイカの産卵礁を整備するとともに、生息場であるヤリイカのホンダワラ場をつくっているというのが方向となります。また、岩手県では今試験礁を入れて、どれぐらいの量が着くかという検討がなされているところです。
最後にキジハタについてです。広島湾ではかつて、メバル用の魚礁がたくさん入れられ、メバルの取扱量が多かったのですが、温暖化でメバルがだんだん減ってきました。一方で、幻の魚とされていたキジハタが、結構な量で獲れるようになってきました。つまり、同じ海域の中で寒い魚と暖かい魚がいて、寒い魚は獲れなくなるけれども暖かい魚が獲れるようになった事例です。水温が変わっても、構造物を変えることなく、棲み変えが起きたということであり、漁場整備の中で何かを適応することはなくて、生物にお任せしておけば緩やかに適応していくということが、お分かり頂けるかと思います。そのため、こういったケースでは、様子を見ながら使っていくというのはいいのではないかと考えています。
これらの課題についてですが、ブリが増えている北海道では、一本釣りという漁法がほとんどなく、定置網や刺し網でブリが獲られています。これまでの議論の中でもどうやって付加価値を付けるかという際に、「刺し網で獲った」では、なかなか難しいのではないかと思います。
ヤリイカについて、日本海側、特に青森では、ヤリイカを棒受け網で選択的に獲り、高付加価値化していました。一方、今太平洋で取っているのは、混獲であり、あまり値段が付いていないという状況なので、もう少し獲れる量が増えていったら、漁法を少し考えていく必要があるのではないかと思います。
キジハタにつきましては、岩礁域で漁獲されていて、現状の漁場整備で対応可能であると想定されますので、魚種の生態別に漁場整備の考え方を考えて適応していくというのが不可欠ではないかと考えております。
また、別の観点では、資源の長期的な変動もあると考えています。ブリと同じく高層魚礁に集まる魚の例で、メダイがあります。メダイはエチゼンクラゲを食べているのですが、2000年頃にエチゼンクラゲが異常に増えたときに、メダイも爆発的に増えました。2000年頃というのは高層魚礁が初めて入った年ぐらいで、高層魚礁にメダイが着いて、対馬から石川ぐらいまでの漁場にはブーム的に高層魚礁がたくさん入って、メダイでみんな儲けるような状況になったのですが、結局これは10年で終わりました。先ほど10年、30年というタイムスパンの話が出ておりましたが、魚礁での魚もそういう期間で変化したという事例があります。

濱田 北海道の例では、スクラップ・アンド・ビルドするわけではなくて、既存の魚礁を活用して、機能強化することで適応されているというお話でした。また、既存の施設そのものを否定するのではなく、持続して活用すれば、魚種が交代しても新たな環境に適応した魚種がそこを利用する場合もあるということで、長期的にみれば、ドラスティックに漁場整備の方針を変える必要はないというお話だったと思います。
ここまで海の中のお話でしたが、次は陸上でのお話をして頂きたいと思います。

的野 博行 氏
的野 博行
国土交通省 北海道開発局 農業水産部水産課 課長

的野 私のほうからは、北海道開発局における気候変動に対する対応について、少し広めにお話ししたいと思います。
ハード的な適応事例をご紹介致します。最初にサロマ湖のアイスブームです。以前は、冬季にはサロマ湖の中から結氷していましたが、最近では湖内での結氷が遅れ、湖口から流氷が流れ込んできています。サロマ湖の中ではカキやホタテの養殖が行われており、流氷が入ってくると養殖施設が破壊されるため、300m程度開いている湖口部に14の固定杭を設置し、その間をつないで、冬期に流氷が入ってこないようにする施設を整備しております。次に道東の歯舞漁港です。こちらでは、屋根付き岸壁や高度衛生管理に対応した施設整備をしています。また、この建物は津波からの避難所としての機能も持っており、防波堤等の強化と合わせ、一体的な対策をしている事例です。
次は、ソフト対策として、気候変動に対する開発局の方針についてです。一つは開発局が作っている『北海道マリンビジョン』において、温暖化に関係する部分で、安全・安心な漁業地域づくりとして、増大する災害リスクに対応した漁港機能の強化を進めていくと謳っています。もう一つ、『北海道の港湾・漁港の技術開発ビジョン』の中でも位置づけています。近年、爆弾低気圧などといった言葉をよく耳にすると思いますが、増大する波浪に対し、老朽化する施設も含め、その対応策について技術開発として取り組んでいます。波浪、高潮の増大、波向の変化について、例えば海面水位が1年にどれぐらい上がっていっているのか上昇速度を解析して、漁港・港湾施設への外力を予測しております、また、周期は長くなり、波高も増大している状況にあります。オホーツクでも有義波高が高くなっていくことが想定されており、将来の状況を予測していこうという取り組みを進めています。
想定される対応策の例として能取漁港をお示ししました(図6)。近年は春と秋の大潮の水位が上がってきています。岸壁の高さが高くないため、満潮になると、後ろの建物あたりまで浸水する状況が生じていました。当初は水面から高さ1.5メートルの岸壁だったのですが、最高潮位が178センチとなったため、高さ180センチまで岸壁を嵩上げしました。一方で、岸壁の一部は屋根付き岸壁となっていました。屋根の下では、ホタテの稚貝などをフォークリフトで積み下ろしを行うのですが、屋根の高さはフォークリフトの大きさによって設計されているため、単純に床の高さを嵩上げするわけにはいきません。漁業者と話し合った結果、高潮で船が岸壁に乗り上げないよう30センチ角の防舷材を岸壁上に据えつけて、船が岸壁に上がるのを防ぐという形で対応しています。

  • 高潮対策としての工事例
  • 高潮対策としての工事例
  • 高潮対策としての工事例
  • 高潮対策としての工事例

漁港・漁場整備長期計画の中では、気候変動の影響を勘案するということも方向性として示されており、田村補佐からも話がありましたように、『設計参考図書』が
4月から改訂されていますが、新たに具体的に気候変動による影響量を盛り込んでも良いこととなりました。開発局としてもその量について具体的な根拠を示すための検討をしているところです。
最後になりますが、温暖化や海水温上昇に関する、3種・4種漁港を使っている漁業者への聞き取り結果をご紹介致します。漁港の関係では、気温の上昇によって荷さばき所内のエアコンの電気代が嵩み、また、氷が融けやすくなっていることから施氷量が増加、これに伴い電力消費が増えているということでした。漁場では、ブリ、マグロの増加に伴い、スルメイカが捕食され、減少することを懸念するご意見もありました。また、高水温により、湖内の養殖カキやアサリの成長の悪化やへい死も起きているようです。サケ定置に漁獲制限のあるマグロが入り込んでしまい、網も壊されてしまうことも問題視されています。それから、コンブ干しの作業中に熱中症になる漁業者が発生したという話もありました。この中で漁港を整備する立場として気になるのは、電気代が大きくかかっていることです。カーボンニュートラルという流れもありますが、漁業活動に対して、太陽光パネルや風力発電等の施設整備による電力供給といった形で支援ができるのではないかと思っています。

濱田 ありがとうございました。水産基盤の整備では、高潮の影響に対して漁業地域の安全性をどうやって担保していくかという考えがあり、取り組んでいるというお話でした。また、北海道が暑くなってきて、氷やエアコン等の使用増によってコストが上がっているということが一方での課題になっており、どのように解決していくのかということも検討が必要ということです。
次は行政でできるソフト面について、宮城県の長谷川さんからお話し頂きたいと思います。

長谷川 新 氏
長谷川 新
宮城県水産林政部 副部長

長谷川 行政としての対策ということで、本県の不漁対策について簡単にご説明をさせて頂きたいと思います。
宮城県の状況です。皆さんもご承知かと思いますが、本県は恵まれた漁場がありまして、漁業・養殖業が大変盛んです。東日本大震災で大きく落ち込んだのですが、国をはじめ全国の皆さまからたくさんのご支援を頂き、おかげさまで令和3年の漁業生産量が全国第4位、また漁業生産産出額が全国第5位まで回復しています。
生産量が回復してきた中で、一方では近年水揚げされる魚種が変化しています。本県でもサンマ、スルメイカ、あるいはイカナゴ、シロサケ、こういったものが減少しています。特にイカナゴ、あるいはシロサケは、極めて厳しい状況にあります。イカナゴは本県の春の主力漁業、シロサケは秋の主力漁業として盛んに行われているところですが、イカナゴについては昨年わずか35トンで、今年はほぼゼロとなっております。シロサケについても、これまで大体200万尾を超えていたのですが、昨年はわずか4万6千尾にとどまり、好調期のわずか2%となっています。
また、一方で、これまでになかった魚が増えている状況もみられます。例として4種挙げさせて頂きます。先ほど来、話が出ていますが、タチウオ、チダイ、アカムツ、トラフグといった暖水性とされる魚種が増えてきています。
このような状況を受け、昨年から漁業関係者や研究機関などで構成する、宮城県沿岸漁船漁業不漁対策検討会を立ち上げました。新たな漁業に取り組む場合は、地域の特性、あるいは既存漁業への影響なども考えなければならないので、さまざまな立場の関係者で会を構成して議論を進めてきたところです。この検討会の議論を経て、今年の9月に沿岸漁船漁業が目指すべき3つの方向性を策定しました。
1つ目として、海洋環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できる操業体制の構築、2つ目として、高付加価値化による収益性の高い漁業経営の確立、3つ目として、スマート水産業等を活用した省力化や生産性の向上、と方向性を定めたところです。さらに、今後想定される取り組みについては、転換や対策の内容について、すぐに対応ができるものから調整に時間を要するものまでという4つの類型に分類し、それぞれの課題ごとに対策を進めることにしています。
このうち、すぐに対応可能なものにつきましては、今年度から漁船漁業復興完遂サポート事業を立ち上げ、予算化して、具体的な支援に取り組んでいるところです。県の直営事業としては、資源量の調査、漁具・漁法の試験、また、漁業関係者に対する補助事業としては、技術の習得、研修のための講師の招聘、操業体制転換支援ということで、実際に転換する際の漁具や設備等の整備を支援するといった内容です。
一部をご紹介致します。小規模漁業での転換で、タチウオやトラフグ、こういったものを対象にはえ縄漁業を操業する際の漁労設備の整備について支援をしております。少し大きい10トン以上の船ですと、ネズミザメ、地元ではモウカザメと呼んでいますが、こうしたはえ縄への転換を支援するといった内容です。また、今年漁業権の一斉切り替えが行われましたが、漁船漁業専業から漁船漁業と養殖業の兼業を進めるべきだという考えもありますので、漁船漁業者が養殖業に参入できるように、区画漁業の拡大の取り組みも行っています。併せて、施設の資材も支援をするということで進めてきたところです。

行政による不況対策支援例(宮城県)

最後に、県の研究機関の取り組みについてです。取り組みのひとつは、新たな魚種の探索や資源の調査になります。また、陸上の受け入れ体制も大変重要だと考えており、本県の水産試験研究機関には水産加工部門もありますので、タチウオやチダイの利活用の方法、加工技術の開発を進めているところです。これらを積み重ねて、現場に普及していきたいと考えております。

濱田 ありがとうございました。宮城県では漁業転換や養殖業との兼業化について支援していくということでした。

5気候変動に対する適応の方向性と課題

濱田 ここからは気候変動に対する適応の方向性と課題について、議論を進めていきたいと思います。まずは先ほど長谷川副部長からあったような漁業転換や養殖業との兼業化について、このような支援を活用する場合の留意点や課題はありますでしょうか。

長谷川 不漁対策を進める中で、新たな対象魚種があれば、どんどん進めていきたいという思いはあるのですが、一方で最初に頭に浮かぶのは、既存漁業とのトラブルは大丈夫かという心配がどうしても起きます。また、資源の問題もあります。獲れるからといって、みんなが一斉に行くと、すぐに資源がなくなってしまうことになります。そのため、今後の方向性とともに今後想定される新たな漁業については、すぐにできるものから調整に時間を要するものまで、それぞれカテゴリーに分けて課題ごとに進めていこうと決めたわけです。
資源の問題については、トラブル回避の面もあるのですが、漁業関係者が集まって、みんなでルールを決めて、資源管理をしながら継続できるように進めることが大事と思っています。漁業者の方は一度やってしまえば自立してどんどんやっていけますので、行政としては全面的な支援というよりも、一歩踏み出すためというか、背中を押してあげるというか。予算面の制約もあるのですが、そういった視点で支援ができればと、考えています。

濱田 可能性のある魚種や漁法に一気に希望者がなだれ込んだらパニックにもなりますし、また資源管理上もそうですし、漁場の紛争にもつながらないような配慮も必要なので、むしろそういうところで漁業調整の役割を県が果たしていくようなところが大事になってくるかなという思いで聞いていました。
先ほどJFみやぎの阿部さんからお話があったタチウオの話で、北九州の方から教えていただいたということで、新たな魚種への取り組みをされているのですが、こういった人と人とのつながりは非常に重要です。とはいえ、このことは必ずしもうまくいくとは限らないとは思います。こういった人と人とのつながりに関連して、また別の事例で、留意しなければいけない課題があれば、教えていただきたいのですが。伊藤常務、何かお話を聞いてもいいですか。

伊藤 はい。魚礁の話で端的に言いますと、先ほどメダイやブリで高層魚礁の話をしました。実際に長崎県では鋼製の魚礁では漁具が引っ掛かるということで、だいぶ抵抗がありました。ただ、やはり魚が集まるということをきちんと確認して、樽流し等の適した漁法を他から持ってきて使った事例はあります。北海道や三陸ではたくさん獲れる漁業しかやってきていなかったので、なかなか急に小規模漁業といっても浸透しにくいところもあろうかと思うのですが、やはりその辺を少し理解してもらいながら、漁業者側の方で先に先手を打って変わっていくというのは大事なのではないかと考えています。

濱田 施策として進めていくにも、進めたはいいがトラブルを起こしては台無しになるということで、さまざまな配慮、目配りが行政には求められるというところかと思います。
続きまして、増えてくる魚種に対していろいろな対策があり、例えば蓄養というのがありました。北海道ではいろいろな魚種が減る一方で、増えてくるものもあると。そういった魚種に対して、利用、加工、そして蓄養という形でいろいろな事例がありました。蓄養になると、これもすぐにできるというものではありません。これについて、三宅副会長から何か指摘するようなことがあれば教えていただきたいと思います。

積丹半島の「袋澗」

三宅 先ほども少し紹介したのですが、積丹を中心に現存している跡といいますか、袋澗の跡があります。これは当時のニシンの網元というのは非常にお金持ちで、プライベート漁港、小漁港ということで自分の私財で造ったと聞いています。その日に水揚げできないニシンを網に入れたまま、袋澗に置いておいて保管したり、小さな港として船を留めたり、いろいろな活用の仕方をされていたようです。漁港にもこういった機能が備わっていれば、より鮮度のいいもの、鮮度を管理したものを出荷できるようになるのではないかと感じているところです。

濱田 続きまして、海藻バンクについて、今どれだけ注目されているのか私も知りたいのですが、田村課長補佐からお話し頂けるということで、ご紹介をお願いします。

田村 真弓 氏
田村 真弓
水産庁 漁港漁場整備部整備課 課長補佐

田村 海藻バンクは、漁港の水域を利活用し、港内泊地で海藻の種苗生産や中間育成を行い、それを天然岩礁に海藻カートリッジという簡易な基盤を用いて移植をするものです。現在、民間事業者等を中心に技術開発が行われていますが、海水温上昇に対応して南方系のホンダワラ類等、地元のニーズに対応した海藻種を今後選定して実証を行っていく予定とお聞きしています。

海藻バンク整備

濱田 これはブルーカーボンの取り組みですか。

田村 藻場造成によるCO2吸収源対策という意味で、ブルーカーボンの取組の一つと言えると思います。

濱田 北海道でも地域によりますが、ブルーカーボンに取り組もうという地域があります。漁港の中でも、稼働率の低いところになると、こういったものが使えるのかなと見ておりました。
カーボンニュートラルについては今のブルーカーボンのように水産の方から積極的に活用していくようなものはありますが、鮮度維持や、気温上昇のためエアコンをつけなければいけないという課題が先ほど的野課長からありましたが、この問題について、今後国で考えられる対策等がもしありましたら、お話しいただきたいのですが。

的野 先ほど電力消費が増加してしまうということに対して、太陽光パネルや風力発電施設の整備ができるのではないかというお話をしました。今やるとすれば、そういうところがカーボンニュートラルということにもつながるのと思っています。風力発電については、例えば水産庁の補助事業で、茨城県波崎や新潟県名立などで風力発電施設を整備した事例があります。ほかには、石油資源を使わずに、冷却による鮮度保持にも使用可能な海洋深層水の取水施設を、水産庁の事業で整備して、清浄海水として活用した事例もありました。むしろ、冷た過ぎるという評価もあった程でした。また、北海道の苫前漁港では冬の間に積もった大量の雪を荷さばき所内に置いておいて、暖かくなった時期に送風機を使い冷風にして、荷さばき所の中の全体を冷やすという取り組みも行われています。

濱田 水産庁でもこうした課題に対した対応というのが進められる、考えられているとお聞きしていますが、田村さん、いかがでしょうか。

田村 気候変動に対応した施設整備の一例として、自然調和型漁港施設というのがあります。自然調和型漁港施設というのは、藻場造成機能や水産生物の生息場としての機能を付加した漁港構造物のことで、防波堤のケーソンの前面又は背後に幅広の捨石マウンドを整備する構造や潜堤付き防波堤などがあげられます。今年実施したアンケートでは、全国の約70地区程度で整備実績が報告されました。自然調和型施設は、その多くが藻場造成機能や海域の環境改善を目的に整備されたものですが、防波堤に潜堤や捨石マウンドなどの構造を付加することで、越波を防いだり波圧・流速の低減効果があると考えられ、気候変動適応のハード対策としても有効なのではないかと考えて調査を実施しました。来年度末に結果をとりまとめて公表したいと考えています。

自然環境調和型漁港施設

濱田 気候変動対応の調和型漁港施設ということでお話し頂きました。今後増えてくる魚種についての資源予測、動向といったところについて、それに対する対応策も必要になってくるので、国や自治体をはじめとする研究機関が一生懸命やられるとは思いますが、山本さん、長谷川さんのところで、何か最新の補足状況等はありますか。

山本 水温が大きく資源に関わってくるのですが、ただ単に水温の上昇に伴って水産資源が南から北に同じ資源サイズで移動するという話だったら単純なのですが、それに伴って回遊経路が変わったり、魚種によっては大きくダメージを受けたりして、移りすんだ環境が適していないところであれば資源は大きく減少します。また、毎年状況が変わっていく中で、この魚種であったら、この漁業のCPUEを測れば大体傾向がつかめるというのも、もう通用しなくなってきています。水産庁としても、どうやって対応していくかというのは、すごく頭を悩ませているところです。柔軟で機動的な資源調査の体制を構築できるように検討していきたいと考えています。

長谷川 県の水産試験場がこういった資源調査に関わって、今後生態調査などに着手していかなければならないというところです。漁業者の方からは、こういった漁業を新しくやってみたいという話を頂いたりするのですが、トラブル回避の問題もありますし、資源の状況をしっかり把握しないと、将来的に漁業経営として本当に成り立つのかどうかという判断も必要になってくるかと思います。県の検討会にも研究機関はもちろん入っていますので、実際に漁業に携わる漁業者の方にも協力頂きながら調査を進めているところです。新たな漁法の検討や試験操業なども漁業者と一緒になっていろいろな角度からアプローチをしているといった状況にあります。

濱田 宮城県ではそのようにお考えになっているということですが、阿部部長は、どのように考えていきたいですか。

阿部 今年は私が始めてからタチウオの漁獲が一番少なく、県全体でも漁獲が少ないので、その原因が何なのか、これまで順調に来ていたのにというのがあって、どこかでたくさん漁獲されると減ってしまうのかなと考えていました。南の方では、一度旋網が巻いたら、その次の年から全然いなくなったよという話も聞いているので、資源の追跡調査というか、どこに行って、どこから帰ってくるのか、産卵場所の特定もしっかりやってもらいたいです。また、これから来るだろう魚種、宮城県ではアオリイカなども増えてきているので、そういうことが少し見えてきたら早めに調査、タグ付けなり何なりというのはしていった方が、漁業者も判断しやすいと思うので、それをお願いしたいです。

濱田 少し離れたところでどのように獲られているかというのは、なかなかチェックできないところですから、回遊経路や関連する他の漁業のことについては、やはり行政機関にチェックしてもらうしかないということであったと思います。伊藤常務からも、この件について何か補足頂けますか。

伊藤 はい。適水温という考え方を科学的にもう少し詰めていかなければならないのかなと思っています。生息できる、死亡しない限界の水温、定常的に生息できる水温、ふ化できる水温、いろいろな条件があって適水温という言葉で混乱されているように思います。漁業が成り立つぐらいの生息環境というところを科学の方から提示して、そういう情報を提供することが必要になろうかと思います。

濱田 続きまして、漁場整備や養殖に関わるところで、北海道では既存の魚礁を活用して機能強化をする方向で資源を増やすというような話がありました。これが新たに違う形での魚礁投入よりも地元の漁業者との調整がスムーズにいくということで、この辺は経験済みのところで判断されるのがいいということですし、また、メバルが減ってもキジハタが増えるという話が先ほどありました。要するに水深帯がマッチすれば十分に既存の魚礁で気候変動に適応できるという話がありました。

伊藤 シロサケが減ってきてどうするかという話が日本では多いです。これについては魚類養殖が対応策のひとつと思います。岩手県で先週シンポジウムがあったのですが、北から久慈、宮古、山田、大槌、釜石、陸前高田、こういうところでは養殖業が今始まっています。ただ、摂餌効率を見ると、大企業と漁業者がやったのとでは雲泥の差、10倍ぐらいあるのではないかと思うぐらい差があるので、その辺を勉強しながら適正にやっていくのが必要かと感じていました。

濱田 既存の重要魚種、基幹産業を支えていた魚種が獲れなくなって何か新しい魚種を増やすとなると、手っ取り早いのが養殖だったりするわけですが、今まで獲れていたものと同じような価値を見いだそうとすると、それなりのノウハウと投資が必要になってきます。
養殖については、他に例がないわけではありません。例えば海藻に注目すると、アカモクがこの10年ぐらいで急成長し、北海道では道南でガゴメコンブが急成長しました。また、アカモク程発展はしていませんが、最近ではホンダワラも着目されているようです。
養殖種というのは地場で育てられるものがあれば、取り組んでいかざるを得ないと思いますが、田村課長補佐から補足頂ければと思います。

田村 漁港で陸上養殖と水域を活用した養殖の例をご紹介致します。鳥取県の網代漁港におけるマサバの陸上養殖では、事業者を公募する形で養殖事業に取り組まれました。漁港用地の占有許可を得て民間事業者が陸上養殖を行い、関西圏等に活〆出荷されています。また、長崎県対馬市の尾崎漁港では、沖防波堤の整備により静穏水域を確保しマグロ養殖が取り組まれています。沖防波堤の整備により、台風等による施設被害が軽減し、荒天時の給餌や出荷作業が可能となるなど、安定的な養殖生産につながったと報告されています。

濱田 養殖ということでは宮城県が大養殖地帯にもなっているわけで、養殖を兼業されている方も結構いらっしゃいます。さまざまな対象種が検討されてきて、本当に多様な養殖が行われている地域になったと思います。いろいろある中で、元々ホヤをやられてきた阿部さんは、ホヤの場合は震災後、韓国の禁輸措置で翻弄されたところがまずはあったのですが、養殖を営まれることについて、漁船漁業をやっている方々がやはり安定収入を得たいということで養殖を始めることについて、何か補足、コメントはありますか。

阿部 元々うちが兼業でずっとやっている感じなので、どの養殖を選ぶかで、どちらにウェイトを置くかがかなり変わってくると思います。うちはホヤなので漁船漁業にウェイトをかなり置いている状態でも動けますが、養殖の種類によっては、漁船漁業をやる余裕がないくらい忙しいこともあるので、その辺の選定は重要かもしれないです。

濱田 ありがとうございます。やはり、前浜の海で何ができるかというほうが、先にありますよね。県のほうとしてもこういったことに支援をしていくということですが、何か補足はありますか。

長谷川 養殖のほうも温暖化の影響というのが出てきて、特に今年は猛暑で、影響が出てきているという話が浜のほうから聞こえており、漁業者の皆さんも不安に思っている部分があります。我々も少しずつですが、例えばワカメでは高温耐性品種の育成や、県内で新たに何か養殖ができないかといった探索も少しずつやりながら、温暖化への対策を進めているというところです。
先ほどのワカメ養殖につきましては兼業ということで進めたのですが、阿部さんがやられているようなホヤ養殖というのは、生産に3年ぐらいかかるのです。一方、ワカメは比較的短期間、単年で収入が得ることができ、震災の時も皆さんがワカメ養殖に取り組んだという実績もありました。漁船漁業が厳しい状況の中、ある程度早めに収入が得られる手法ということで、まずはワカメとの兼業を進めようという流れでした。

濱田 確かに東日本大震災の後で復旧・復興していく上で、養殖事業者だった方々が再開するかやめるかという判断を迫られたのが、カキやホヤ、ホタテ養殖でありました。複数年かかる養殖業は始まってから3年後に収入になるということで、一回途切れたところで再開するというのは、本当に大変な話です。兼業業種としてこれをまた漁業者さんがやるといっても、ホタテやカキやホヤとなると、収入になるまでに支出のほうが増えていくわけですから簡単にできないわけであって、その辺を支援策としてどう打つかというところが大きな課題かと思います。
東日本大震災の時は「がんばる養殖」という施策支援があったので、あの施策があったから再開できたという人も結構いらっしゃいました。この「がんばる養殖」というのは、漁協が漁業者に依頼するという形を取って水揚げ金で返していく。その間、人件費や資材費は漁協が払っていく。それを国がバックアップするということで、基本的に国庫から出たお金がまた国庫に戻ってくるという意味でも悪くはないし、それで被災した漁業者たちが再開するのに非常にハードルが下がったという意味でも、いい施策だったと思います。こういったことも、また施策のイメージとしてあるのではないかと思います。
その他、いろいろな浜を歩いて、いろいろお気付きのところがあると思うので、伊藤常務にもこの養殖のことについてお聞きしたいと思います。

伊藤 三陸の場合は、ワカメは北限だったわけです。それが少し暖かくなってきても耐えうるわけです。だから、そういったものは増やしていけばいいと思います。
ホタテなどは逆で、貝毒の問題がすごく大きくて、なかなか難しいという状況です。それから、三陸はウニやアワビの宝庫だと皆さんイメージされていると思いますが、漁師からすると、アワビはお金になるけれどウニはお金にならないものだったのです。今は蓄養をして、餌をやって、どうにか商品化する取り組みが三陸でも始まっているので、そういったところがサイクルになればいいのかなと思っています。また蓄養するということは、今までは夏の食べ物だったのを冬の食べ物に変えることも可能になってきて、差別化もできるということだと思うので、そういう取り組みも必要になってくるかと思います。

濱田 これまでのまとめから、気候変動に対する適応の課題といったものをお話し頂きました。ここで最後に気候変動に対する地域に向けた提言・アドバイス、あるいは最後に言いたいということをパネリストの皆さまから一言ずつお願いしたいと思います。

山本 今日はどちらかというと、水産業の中の生産サイドが適応してきているという話が中心でしたが、気候変動に魚が適応し、阿部さんのような漁業者さんが適応して、それに加工・流通が追い付いてこようとしているということだと思います。水産庁の中でもよく出る話として、日本で生産されるものと日本で消費されるものがどんどんギャップが出てきて、ミスマッチが起きていると。それを輸入で補わなければならないという現状が起きているので、私たち水産関係者としては、生産する方も適応するだけでなく、1人の消費者として国内で獲れたものをしっかりいただくという消費者としての行動も変えていかなければならないと感じています。

阿部 気候変動に関わらず、われわれ漁師の場合は簡単です。魚に合わせる、それだけだと思います。

長谷川 今日は皆さんの話を聞いて、大変勉強になりました。ありがとうございます。不漁対策と一言で言いますが、簡単に解決はできないと、われわれは思っています。いろいろな視点からの取り組みが必要だと思います。引き続き県としても漁業関係者の方々と力を合わせて取り組んでいきたいと考えています。また、正直、われわれ行政も実は手探り状態で、どこから手を付けていいのか最初は分かりませんでした。先進県の皆さまの調査・視察などをぜひやりたいと思っていました。ですから、可能であれば、視察やアドバイスなどを先進県の皆さまから頂ければ、ありがたいと思っています。

三宅 今日はいろいろ勉強させていただきまして、ありがとうございました。北海道では赤潮対策や電源交付金といった支援が非常に助かっています。基本的には阿部部長がおっしゃったように、地域に適した順応的管理というのか、漁業も含めて資源を管理していくということなので、漁業の適応に対する支援というのは、やはり国の支援が非常に重要なのかなと感じました。

的野 ハード整備の立場から言えば、将来の周期や波高については精度よく予測して、それをしっかり検証していくことが必要と思う一方で、漁業に関して言えば、水温が上がると魚種が変わる、魚種が変わると漁法が変わる、漁法が変わると漁船が変わるという流れを経て、ようやく漁港の設計等に反映されるはずですが、場合によっては、養殖に変わっていったりするかもしれないので、先行投資というのもなかなか難しいのかなと感じました。

田村 今日のお話を伺い、気候変動というと大きな変化が少しずつ現れると思いがちですが、地域によっては資源や漁獲の変化が局所的に大きく現れたり短期的な事象として急激に変化したりといったこともあるということを改めて認識しました。こうした地域の漁業の動向や魚種の変化を踏まえつつ、これからの施設整備を考えていくことが重要だと感じました。

伊藤 的野さんのお話もあったように、漁港は取りあえず部分的な改良をして、対応できるものは対応していくというのがいいのかなと思うし、漁場のほうは、同じ魚種の資源が長く続かないということがキーワードで、そこに合わせた、緩やかな緩和策が必要だと思います。漁業の方については、ひとつの資源に頼るような生産構造が確立されると、小規模漁業への転換や養殖業への転換など、なかなか急には行きつかないと思います。でも、最初に影響を受けるのは漁業者で、実入りがなくなるということなので、放り投げる形で申し訳ありませんが、そこは自分たちの努力で先に漁業者が動いてもらうというのが、こういったものの対応策だと思いました。

濱田 気候変動にどう対応していくかという議論をこれだけ幅広にやるということはあまりなくて、また、ハード整備の話につなげていくこととなると、さらにハードルの高い議論が求められるというところで、今回のお話を受けた時に心配もありました。
いずれにしても、そこのインフラの上に産業がある以上、産業に対応したインフラが必要であるということは変わりないので、その産業の行く末とインフラの行く末というのは、一体的に考えなければいけないと改めて思った次第です。
そういう意味では国の政策としても、公共・非公共を分けて話をするのではなくて、水産政策としての公共政策というのは、水産業というものがまずしっかりと成り立つというところに軸足を置いて、政策の在り方を考えていって頂ければと思いました。
気候変動の対応というのは、かなり難しい課題ですが、私は話題提供いただいた三浦部長の話に関心を持ちました。そこでは、ある程度長期計画も立てなければいけないし、予測を立てて、その予測に基づいてどのようにして整備していくか、それが被害をカバーするようなやり方なのか、積極的に対応するのかというような整理だったかと思います。
科学技術の発展の中で予想可能なもの、精度の高いものは、施策にどんどん利用しながら、不確実性の高いものに頼るのは少し恐ろしいものがありますが、ある程度水温上昇というのが確実に進んでいくことが分かってきたならば、そこへの対応というのは、しっかりと組み込んでいくべきだと思います。高潮・高波もそうですが、分かっていることは早めに対応していくということがハード整備には求められているのかなと思います。
ソフト面から見た場合は、しっかりした産業政策がないと、ハードへの接続がなかなか難しいということで、ここについてはまだまだ議論を深めていく必要があるということで受け止めていただければと思います。

濱田 最後に、質疑応答に移りたいと思います。まず、オンラインから1点、伊藤常務への質問が来ています。「漁場整備に関して、魚種交代に対応した既存魚礁の活用についてお話し頂きましたが、新魚種に対する適地を選定して、新たな魚礁の整備というのは考えられないのか?整備コストなど、まだ早いでしょうか」という質問です。

伊藤 日本にいる魚で、魚礁性のある魚というのは一定程度のものがもうあるので、それが全然違うものが入ってくるということはあり得ないと思います。ですから、それに対する適正水温という整理の仕方もされているので、どういう水深帯にどういうものを入れていったらいいのかというのは多分予測がつくところだと思います。規模をどうするかやB/Cまでは分からないかも知れませんが、どういう適地にどういうものを入れたらいいのかという想像はつくと思います。

濱田 北日本コンサルタントの三上様からのご質問でした。まだ時間はありますので、ぜひ時間の許す限りで会場からも、ご質問があれば挙手をお願いしたいと思います。

会場 田村さんに質問したいのですが、先ほどスライドで浮消波堤の写真が出ました。あれは基本的に漁港区域内なのでしょうか、あるいは漁港区域外なのでしょうか。また、漁港区域をこれから大きく拡大することが考えらえるのかどうかをお伺いしたいです。

田村 先ほどの浮消波堤は漁港区域内で、漁港区域内にある漁港施設として整備されています。漁港区域は漁港の利用や機能上必要な範囲を指定し、その区域内で漁港施設の整備を行います。沖合養殖の展開につきましては、民間事業者等により施設整備を行い、養殖に適した漁場が確保されている例もあります。

濱田 予定時刻を過ぎましたので、これで質疑も終わりにさせて頂きます。今日は非常にたくさんのお話を聞いて、私も大変勉強になりました。気候変動に関する問題というのは一筋縄ではいかなくて、どういう角度で攻めていくかで、また話も変わってきます。
今日は幾つかの議論をしていく上での知見・論点が得られたと思います。こういう機会がなければ次の議論にもつながっていきませんので、私にとっては大変有意義な機会だったと思います。ハードの業界の関係者がソフトの部分の議論まで含めてこうやって聞いていると混乱される方も多いかもしれませんが、産業のインフラということになりますので、今後も、ぜひとも関心を持ってチェックして頂きたいと思います。
それでは、時間になりましたので、私のつたない司会進行でしたが、これにてパネルディスカッションを終了させていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

パネルディスカッションのもよう
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