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- 2023
- 6
進めよう!海業
~海業による漁村振興に向けて~
1趣旨説明とパネラーの紹介
- 関 いずみ氏
- 東海大学人文学部 教授
関 こんにちは。このパネルディスカッションのコーディネーターを務めさせていただきます関と申します。よろしくお願いします。
今日は、海業について、ディープに、そして、楽しく語り合っていけたらいいなと思っています。
さて、趣旨説明です。
日本の漁業就業者数は昭和の終わりから現在に至る約30年間で60%ほど減少しています。それから、漁村の高齢化率は2020年に40%、これは日本全体よりも10ポイントぐらい高い数値でしょうか。当然のことながら漁村自体の人口減少も進んでいるわけです。また、漁村の核となる漁業についても漁獲量の減少など、課題は山積みであるのが現状ですし、大規模化する自然災害や、近年では新型コロナウイルスの感染症拡大で、これは漁村だけに限りませんが、経済や生活全体に大きな影響が及ぼされているというような背景があります。
そのような中、新たな水産計画の柱の一つとして、漁村活性化のために海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する産業、つまり、これが海業ということになるのですが、この海業を推進していこうということが明記されたわけです。
これまでも漁村の中では、漁家民宿や加工品の製造販売、レストランの運営などが、例えば、漁村の女性のグループさん、あるいは、漁協さんなど、いろいろな人たちによって取組が行われてきたわけです。そういう意味では、海業というのは、特に今始まった新しいというものでは多分ないとは思います。ですが、近年の動きを見ますと、より幅広い取組の実践や、より幅広い人々の協働などということが顕著になってきているのかなと感じます。
そこで、このパネルディスカッションでは、海業という、古くて新しい取組を実践されている方々をパネラーさんとしてお招きし、それぞれの活動の紹介や、今後の課題、それから、展開、展望について意見交換をしていきたいと考えています。
それでは、まずパネラーの皆さんに自己紹介を兼ねながら、それぞれの海業活動についてお話しいただきたいと思います。
最初に、神奈川県三浦市海業水産担当部長の鳩野弘毅さんです。神奈川県三浦市は、婁先生の講演にもありましたが、海業という言葉を最初に使った自治体です。三浦市の海業の取組や経緯、三浦市にとっての海業の意義などについてお話しいただきたいと思います。
では、鳩野さん、よろしくお願いします。
- 鳩野 弘毅氏
- 三浦市 海業水産担当部長
鳩野 ただ今、ご紹介にあずかりました三浦市経済部で海業水産担当部長を務めています鳩野と申します。本日はよろしくお願いします。三浦市は神奈川県南東部の三浦半島の南端に位置している市です。西側が相模湾、東側は東京湾、南が太平洋と三方を海に囲まれた市で、自然環境に恵まれており、漁業、農業、そして、観光業が盛んな都市です。都心からのアクセスも良く、電車で約70分、自動車で約90分という位置にあります。
市の南西部には、三崎漁港があります。特定第3種漁港で神奈川県が管理している漁港です。この漁港はマグロ漁業の基地として栄えてきたところで、現在もマグロの集出荷機能を有する港です。その他、首都圏に近いということで、タイやブリの蓄養も盛んな港です。この後、少し紹介させていただく海業プロジェクトや三崎フィッシャリーナ・ウォーフ「うらり」はこの三崎漁港にあるものです。
三浦市には他に5つの漁港があります。例えば、刺し網とか定置、採貝、採藻などが盛んであるといったような沿岸漁業が盛んなところです。
三崎漁港には、三浦市三崎水産物地方卸売市場があり、主に沿岸物を扱う沿岸卸売市場、マグロ専門を扱う低温卸売市場があります。
市場の年次別取扱高を紹介します。昭和43年が取扱数量のピークで約9万5,000トンです。取扱金額につきましては、平成元年に620億円を記録。その後、少し右肩下がりの状況が続き、直近のデータでは取扱数量のほうが約1万8,700トン、ピーク時の約5分の1です。取扱金額は約196億とピーク時の3分の1となっています。
久野市長が海業を提唱したのが昭和60年です。
海業とは水産業を核として商業、観光業、工業、教育等、あらゆる分野を結び付けて新しい複合的産業のことで、概念図を示しますと右のこの図のようなイメージになるかと思います。
当時の背景としては、漁業を取り巻く環境が非常に厳しく、根本的に海等の利用を考えていく必要があると。単に漁業だけではなく、複合的経営に取り組む必要があるとして、久野市長が海業を提唱しました。
漁業の近代化の対応だけではなかなか厳しく、他の産業の要素を取り入れつつ産業を展開する必要があるということで、提唱したと考えています。
また、当時の時代背景もあり、リゾートが今後伸びていくということで、リゾートと海の共生を通じてその活力を漁業分野にも取り組んでいく必要があるということも意識していたようです。
三浦市の具体的な海業の取組の事例を何点か紹介いたします。
一つは三浦海業公社が管理運営している三崎フィッシャリーナ・ウォーフです。愛称を「うらり」といいます。
三崎フィッシャリーナ・ウォーフ「うらり」は2001年(平成13年)に開業し、20周年を迎えました。マグロを中心に扱うさかな館と、地元の野菜・三浦野菜を扱うやさい館からなる産直施設や市民ホール、あとはゲストバース、いわゆるビジターバースです。それから、駐車場、水中観光船もあります。それらを経営しながら海業を展開しており、三崎地区の観光客が訪れる中心的な施設となっています。
三崎地区に入る入込観光客数のうち約6割の方が「うらり」を訪れています。「うらり」というのはもともと旧魚市場の跡地に建てられたもので、昔、マグロ漁船でにぎわっていた場所が、今、観光客でにぎわっているということで、地域のにぎわいに非常に貢献しているところです。
もう一つの事例として、三浦市の三浦市漁協女性部連絡協議会が運営するはまゆうという食堂です。
この連絡協議会は1960年代に発足しました。当時、アジ・サバ・イワシなどの大衆魚が大量に取れる時代で、いわゆる大量貧乏というようなことが起きたため、そういった魚を使った地域の郷土料理をアレンジしてレシピを考案して、それを基に魚食普及活動を行っていたという歴史があります。
先ほど婁先生の中でも少し言及されていましたが、1990年にSURF’90というイベントが神奈川県で開催され、その際に魚食普及活動の一環と、そういった魚に市場性があるかを確認したく、試験的に、はまゆうをオープンしたところ、手応えを感じたということで、そのまま運営しているものです。
その後、ちょっと苦しい時期もあったということなのですが、先ほど紹介をしました「うらり」がオープンしたことにより相乗効果ということで客足もまた戻って現在に至っています。ここで働いているのは平均年齢が73歳で一番高齢の方は83歳という状況です。
最後にご紹介するのが、二町谷地区海業振興プロジェクトです。
これは今現在進めているものです。ここは三浦市の三崎漁港なのですが、二町谷地区埋め立て地というところの約700ヘクタールの土地を活用したプロジェクトです。今後、凡そ10年ぐらいかけて進めようというものなのですが、この埋め立て地は、漁港水産物流通加工業業務団地として平成8年に埋め立て申請をし、平成19年に分譲開始をしたのですが、なかなか買い手がつかなかったもので、ようやく平成30年に土地の売買契約に至ったというところです。
ここでは、国際的な経済活動の拠点形成を目指し、最大300フィートのスーパーヨットの係船が可能な浮桟橋や、富裕層をターゲットにしたホテル、商業施設等を整備するプロジェクトを展開しているところです。現状、浮桟橋を整備したり、あるいはイベントを開いたりして、今後、さらなる事業展開を進めていくような状況です。
このように三崎漁港の三崎地区を中心にいろいろなプロジェクトが動いています。もともと三崎は水産業を基幹産業として、マグロ中心に栄えてきたところで、港勢は先ほど示したとおり、落ちている中でも海業プロジェクトを通じて、引き続き、観光客を集める地域活性化に資するような状況になっています。
以上で、紹介を終わります。
関 鳩野さん、どうもありがとうございました。
続いて、福井県小浜市の阿納という集落でいろいろな漁業体験プログラムを実施されていますブルーパーク阿納の理事、広田延孝さんです。
広田さんからはブルーパーク阿納の設立の経緯や取組、活動の効果などについて紹介していただきたいと思います。よろしくお願いします。
- 広田 延孝氏
- ブルーパーク阿納 役員
広田 福井県小浜市から参りましたブルーパーク阿納の広田と申します。
私たちが暮らす地区は、福井県の嶺南地方、京都に割と近い小浜市阿納地区です。ここは日本海側なのですが、ご覧のようにリアス式海岸の内湾になっており、冬場でも割と波は静かですので、養殖業を盛んにやっています。
民宿もやっており、ちょうどこれから冬にかけてこのような雪景色になるのですが、旅館、民宿、そして、トラフグやマダイといったものが中心の魚の養殖をしています。そして、冬場にはこの写真のようなフグの料理を出してお客さんを呼んでいる、そのようなところです。
民宿のほうですが、近年、民宿離れ、海水浴離れということでお客さんが減ってきまして、何とか民宿を振興させようと、平成18年(2006年)、地区内の民宿で体験民宿組合というものを設立しました。ちょうど漁港が整備され、民宿もしているし、養殖もしていて魚もある。そして、小浜市は食育を推進しているということもあり、これは使えるだろう、民宿の振興にぜひ利用しよう、ということでブルーパーク阿納という釣堀と魚をさばく施設を作りました。最初はお金もなく、左側の写真にありますように、足場を組んでそこにビニールのシートでテントをつくって、そのような仮設の状態で始めました。
最初は本当に年に1校2校しか学校の生徒さんは訪れることもなく、本当に大丈夫かな、このままやって大丈夫なのかという意見もありましたが、前の会長が創業者なのですが、借金してやってでも、もし駄目でも自分が借金を全部かぶるからぜひやろうということでやりました。平成22年に右側の写真のように、小浜市の補助もだいぶ受けまして、新しい施設を造っていただいて、そして、現在まで活動が続いているという状況です。
現在は教育旅行を、主に中学校を中心にお客さんを受け入れていまして、この施設を利用して海の体験活動をして、一泊していただいているという状態です。
写真のように、まずは釣堀でタイを1人1匹釣ってもらいます。これは自分たちで養殖をしているマダイをいけすから持ってきまして、この港の中に整備してある釣堀の中にタイを放し、それを1人1匹ずつ釣ってもらっています。ご覧の写真のように魚の釣り方を説明して、そして、実際に釣ってもらうということで、右下の写真のようなかなり大きいタイを釣ってもらいます。これは1人1匹釣ってもらって、それを全部一人で調理して食べてもらうという体験活動をやっています。
釣ったタイを、まずは、しめるのですが、これがなかなか生徒さんには難しいので、こちらのスタッフが魚をしめます。その様子も見てもらって、ちょっとかわいそうですが、魚の命を頂いて、生き物の命を頂いて自分たちも生かされているのだなということも食育の一環として勉強してもらうようになっています。その後、自分の釣った魚を実際にさばいてもらいます。
魚さばきの講習ですが、われわれ組合員のメンバー、それから民宿の女将さんが担当して、子どもたちに教えながら魚をさばいていってもらっています。釣った魚をさばいてもらい、隣にこういうバーベキューの施設が造ってあるのですが、そこで、自分で作ったお刺身と残り半身はこの写真のように焼いて食べてもらっています。
あとは、宿泊した民宿でおにぎりとみそ汁と作ってそれを食べていただいています。これは泊まって次の日の体験にすることが多いです。
その他のメニューとしまして、実際に養殖場へ連れていって魚の餌やりを体験してもらったり、漁船を使ってクルージングに出たり、天気が悪く海の活動ができないときの代替メニューとして、地元で栽培されている梅を使った梅ジュース作り、あとは、塩作り、これはちょうど阿納の港の下に昔の塩田の遺跡が眠っていまして、そのような話をしながら塩作りをしたりしています。
この昼間の活動が終わって、夜の夕食の後に一番右下の民宿のあるじとの語らいということで、生徒さんとわれわれの仕事について、あるいは、地域の昔からの生活についてなど、話をする時間があります。これが一番嫌な時間なのですが、学校の先生がぜひこれをやってくれということですので、頑張ってしゃべっています。
また、5~6年前から新しく始めた体験メニューで、シーカヤックを使ってすぐ近くの岩場などを散策します。このように新しいメニューも随時考えながら活動を進めています。
最近の利用者数の推移です。先ほども言いましたが、一番最初に始めた時は1校だけでした。次の年も1校だけで、次の3年目ぐらいは2校になり、そして、徐々に増えてきました。コロナ前は大体6,000人近く、5,800人ぐらいというところまでお客さんが来てくれるようになりました。2020年はコロナの影響でかなり来場者数も減ったのですが、今年はまた大体5,800人ぐらいというところまで回復をしてきています。
ここには書いていないのですが、大体、ブルーパークに入ってくる収入のうち、宿泊代に関してはそれぞれの民宿さんに直接行きますし、あとはさばき体験に使ったマダイの料金だったり、それからさばき体験の時に出てもらった人の手間賃だったりというのはそれぞれ組合員のところに還元され、売り上げのほとんどは地元の組合員のところに落ちるようになっています。
自慢するわけではありませんが、はじめて10年ぐらいたった時に、ご覧のようにふるさとづくり大賞だったり、オーライ!ニッポン大賞であったり、また福井県農林漁業賞といった表彰をしていただくことができました。頑張ってやってきたことが一定の評価をされて非常に良かったなと思っているところです。
この体験活動は中学生の受け入れなのですが、これをやったおかげでやはり民宿としての収入も増えましたし、特に教育旅行の期間が5月、6月、9月、10月といった民宿の閑散期でしたので、村の中も中学生のみんなのにぎやかな声でにぎわいも出てきましたし、村の中が明るくなりました。収入アップもうれしいのですが、村として活性化につながったのではないかなと思っています。
以上で、活動の説明を終わらせていただきます。(拍手)
関 どうもありがとうございました。
では次に、静岡県沼津市内浦の「いけすや」という食堂の店長、土屋真美さんです。
「いけすや」は漁協直営の食堂なのですが、内浦はアジ養殖が盛んな地域で、その養殖アジを使った工夫を凝らしたメニューが大人気の食堂です。私も大ファンなのですが、この食堂の人気の秘密も含めて、土屋さん、よろしくお願いします。
- 土屋 真美氏
- 内浦漁協直営いけすや 店長
土屋 皆さん、こんにちは。静岡県沼津市にある内浦漁協直営「いけすや」の店長をしています土屋真美と申します。どうぞよろしくお願いします。
こちらの写真は、当店自慢の商品である鮮度抜群のアジと一日一晩寝かせたアジと二つの食感を味わえる二食感活あじ丼です。
「いけすや」のチーム、“スタッフIKS”の平均年齢はオープン当初57歳、会いに行けるアイドルならぬ「会いに行けるお母さん」として浜の女性チームで運営しています。
「いけすや」のある地域は日本一高い富士山と日本一深い駿河湾から深い恵みのある恩恵を受ける地域で、首都圏に近い地理的条件を生かし、古くから水産のまちとして発展してきました。漁協の管轄区域は20キロにわたる海岸線を有し、入り組んだ湾の形状を生かし、「いけすや」の由来となった養殖いけすがたくさん設置されています。内浦漁協の水揚げのほとんどはマアジ、マダイが中心です。平成27年度ではその約7割を占めています。平成3年度と比べるとマダイが約6割を占め、マアジは2割近くなりました。これは新型コロナウイルスの感染拡大により養殖マアジを取り扱う店舗の閉店などによる需要の変化や、天然稚魚を仕入れて養殖するため、水温の上昇など、海の生態の変化によって稚魚を仕入れることが困難となり、マアジの占める割合が大きく変わっているためです。
静岡県は養殖魚の産地の北限に位置しています。マアジ養殖においては静岡県内では当内浦漁協でしかありません。静岡県で水揚げされる養殖マアジは全国の48%を占めます。しかし、漁としては、平成元年ごろに比べ約4分の1に減少しています。養殖業者も70軒から今では十数軒になりました。養殖業者に限らず、組合員の高齢化が進み、担い手不足も深刻な問題です。
こうした状況に、危機感を抱いた漁協が日本一の養殖マアジをPRするべく活動を開始します。まず、平成21年9月から漁協市場を利用して活あじ祭を実施。当店の活アジ丼の原型はここから始まりました。平成25年4月から漁協の市場を利用し、市場食堂「いけすや」毎週日曜日のお昼に営業をはじめました。厨房は、当初、市場事務所を改装し、使用していました。この際、漁業者のお母さんに手伝ってもらったことがチームIKSの原型となります。
そして、平成16年5月16日にいよいよオープン。予想を上回る来場者により毎日毎日をこなすだけでも精いっぱい。予想以上の大反響でした。
仕事と家庭を両立させるには家族の支えがあってこそ。家族への感謝とともにチームIKSのメンバーはさらに前進し、地域の顔としてパワーアップしていきました。
こうした努力が重なり、オープンから1年7か月で10万人、7年たった今、50万人ものお客さまにご来店いただいています。
こちらはオープンから2022年10月までの「いけすや」の来場者数。そして、次が売上金額です。2016年、2017年と前年を上回っていきましたが、やはり2020年から環境は大きく変化し、当店も休業やテイクアウトのみの営業を余儀なくされ、売り上げも厳しい状況となりました。
そんな時にこそ何かができないかと思い、皆で知恵を出し合い、さまざまな取組を行いました。休業中のコロナ対策のための店内改装もその一つです。
テラス席の整備や整理券発券の仕組みを見直したりもしました。さらに、この時期、テイクアウトメニューの開発販売も行いました。
この時、養殖漁師の方々もまた危機的状況を迎えていました。緊急事態宣言により出荷量が激減、出荷がストップしている状態。そこで何かできないかと当店の人気メニューである「いけすやの活あじふらい」販売をオンラインショップでスタート。同時にキャンペーンを打ちました。多くの方にご支援いただき、厳しい時期に予想以上のお客さまに応援、ご注文を頂けたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
また、新たにお土産用化粧パッケージのアジフライも開発・販売し、普段私たちがお店で提供しているアジフライの揚げ方の動画をYouTubeにアップし、ご家庭でもおいしく召し上がっていただける工夫をしました。
また、地域の人や企業団体と連携しながら地域を盛り上げていくことはとても大切なことだと考えています。この苦しい時に地域にも数店舗を構える大手のスーパーさまよりお声がかかり、漁師さんの応援企画としてPR、販売していただけるなど、地域のつながりと人の温かさを感じることができました。
いつもチームとしてのつながりを大事にしてきたメンバーたちです。そんなメンバーが活躍する「いけすや」が今後も地域へ新しい価値と雇用を生み出す場所として継続し、伝統の味を次世代へつなげていく。この後を担っていく新たなメンバーを確保、育成し、継続する組織体制を構築することが重要な課題の一つであると考えています。さまざまな環境の変化によりさらなる課題も出てきていますが、それは次へのステップだと捉え、これからも常にチーム一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
この先、私たちの活動が漁業の未来だけではなく、地域のさらなる活性化、持続可能性につながるようチームIKSとして笑顔で発信していきたいと思っています。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)
関 どうもありがとうございました。
それでは、次に、漁村総研の伊藤靖さんです。
伊藤さんからは岩手県大槌町で取り組まれている、水産会社と共同で新たな養殖業を導入して、それが地域振興につながっているという事例についてご紹介いただきたいと思います。
では、伊藤さん、よろしくお願いします。
- 伊藤 靖
- 漁村総研 常務理事
伊藤 ご紹介にあずかりました漁村総研の伊藤です。どうぞよろしくお願いします。
岩手県における魚類の養殖ですが、温暖化で水温が上昇し、秋サケ、サンマ、スルメの漁獲が減少しています。特に定置網漁業の主要魚種であります秋サケが大減少しており、秋サケに代わる漁業としてマス類の養殖が各地で少しずつ行われています。
このような中、民間事業者(ニッスイ)と地元の企業との連携による地元の活性化ということで取組をしましたのでご紹介します。
岩手県内におけるサケ・マスの養殖の取組は、既に5か所ほどやられており、久慈市、宮古市、大槌、これが一応今年度から本免許を取りまして、おのおの600トン、120トン、それから、大槌町が400トンで進められています。
取組方法も各々で異なり、久慈市の場合は漁業者が養殖をして地元の漁協に水揚げしています。宮古市の場合は漁協の職員が養殖をして港に水揚げをする。大槌の場合は、地元が養殖をするのではなく、ニッスイが養殖をしたものを、一部、おおつち漁協に水揚げするということで、今期、400トンの目標で養殖を行いました。
ここで、震災後の取組ということで、右の上にあります大槌復光社協同組合というものがあります。地元の建設業者とか電気屋とかが、復興時のグループ補助金をもらうための団体をつくったわけですが、だんだん仕事がなくなってくるだろうなという状況で、ここにたまたま友達がいて「何かやってみたいんだ」という話がありました。ただ、後ほど申し上げますが、漁協さんは「そういうところへ入ってきてもらっちゃ困る」ということで決裂していたといいますか、駄目だったということです。
新おおつち漁業協同組合ですが、震災後に再生した漁協です。そこにニッスイの出身者が大槌の東大海洋研の出身で、そこで養殖をしたいと考え、私のところに相談に来たわけです。「伊藤さんは大槌の出身なんで何かどうにかならない?」と言われた時に、10年間いろんなことやってみたが全くうまくいった覚えもなくて、「さあ、どうしようかな。難しいと思うよ。岩手県ってなかなか魚類養殖にはみんな乗ってこないと思うよ」という話をしたのですが、その際にはっと気が付いて、「この復光社の人たちと連携を組めて、地元に金が落ちるようなシステムをニッスイが受けてくれるんだったらちょっと考えますよ」と3回断った中でお願いしました。そうしたら、ニッスイさんも社内に持ち帰ってくれて、受け入れてくれたのがこの取組、連携の仕組みのまず最初の段階でした。
ここで、試験に対する協定を結んだわけです。
その協定の下、今年度から本養殖ということでお話をさせてもらいましたが、海面養殖は岩手大槌サーモンでニッスイの子会社の弓ヶ浜水産が準組合員になって銀鮭とトラウトを350トン、今年度は生産しました。この350トンのうち、漁協を通して販売手数料50トン分が大槌なり釜石なりの業者さんが購入して、そういったものが町の加工やさんで加工してこういう商品になっています。
一番最初に説明しなければならなかったのですが、種苗生産に関しましては、この大槌復光社協同組合が大槌の川で生産されています。その稚魚をここに持ってきて養殖をしたのですが、加工の部分が問題になりました。一次加工処理も含めてそういった産業がないところにいきなり350トンの魚を養殖したので処理ができないという状況になったのです。現在は山田町に300トン加工してもらっています。
おおつちサーモンは、地元に根付いた産品ではありませんので、地元での知名度がほとんどありません。そこで、町が中心となってサーモン祭りを実施しました。本年度は人口1万1,000人の町で来場者が1万人ぐらい集まるようなイベントをし、地域のものだという意識づくりを行っているという状況です。
実は、来年、免許の更新の時期を迎えるわけですが、そこから5年間、取りあえず銀鮭、トラウトで2,000トンプラスアルファぐらいの区画を理事会で承認してもらいました。ですので、20基ぐらいのいけすになって、ここで2,000トンプラスの生産を行っていきます。それから、できれば新規に新おおつち漁協にも養殖にも参画してもらって生産を増やしていきたいと考えています。
種苗のほうに戻りますが、ここでも復光社が25トンぐらいつくるのですが、大槌町の岩手県の秋サケのふ化場を使って銀鮭の生産、稚魚の生産を漁協にやってもらって、これを販売してもらうような仕組みにしたいと考えています。
復光社のほうは、種苗の生産だけではなく、一部は今もやっていますが、陸上の桃畑学園サーモンということで、鮮魚にして売り出すということを検討中で陸上養殖施設をこれからつくっていこうと考えています。
ここの中で、100トンぐらいは漁協に水揚げをしてもらい、地域でのブランド化をさらに促進するということと、それから、一次加工処理が足りなくなって大船渡などの近隣でやることになるのですが、できれば加工場等を新設して一次加工の分を漁協に担ってもらえるようなことができないかと検討しているところです。
地域の知名度向上はこれからもやり続けていく必要があろうかと思っています。
これ以外に2,000トンになると物流の体制を確立しなければならないので、こういった産業もこれから新しくつくっていくということになります。
漁港の利用ということで将来構想になりますが、養殖拠点漁港に向けて、フィッシャリーナの利用も含め、漁具倉庫にしたり、一次加工処理施設をつくったり、そういったものも養殖拠点漁港として整備していければ、地元にお金が落ちる仕組みができていくのではないかということで検討中です。
関 伊藤さん、ありがとうございました。
今、海業ということで、三浦市さん、ブルーパーク阿納さん、「いけすや」さん、伊藤さんの岩手大槌サーモンの事例を紹介していただきました。これまでのパネラーさんたちの事例について、婁先生のからコメントをしていただければと思います。お願いします。
- 婁 小波氏
- 東京海洋大学 副学長
婁 コメントということですが、私も今日初めて聞くような事例もありますが、感想を申し上げたいと思います。
多分、皆さんもお聞きのとおり、今、ご紹介していただきました海業の取組というのは非常に多様な姿があります。取組主体も公社だったり婦人部だったり漁協だったり、あるいは企業だったりと。それから、海業のコンテンツも実に多様です。
今、伊藤さんにご紹介していただきましたサーモンの養殖は企業ですし、阿納の事例は民宿の皆さん、あるいは漁業者の皆さんが組合をつくってやるということですし、土屋さんのところは漁協婦人部というような形でいろいろと多彩な主体があります。ですから、この主体、コンテンツを見ますと海業は多様だなと皆さんもお感じになられると思うのですが、ただ、そこに共通した特徴はやはりあるなと思っています。
その一つは、先ほど申し上げたようなレジティマシーに関連するものです。つまり地域の支援を皆さんが得られているのです。合意形成がしっかりとなされた上でやられているということです。それから、非常にコンテンツのメニューはニーズに対応して、常に改善されていっているということです。
もう一つ、もっと大きな特徴は、皆さん、漁港を使用しているのです。漁港という地域最大の地域資源というものを皆さんが価値創造をされていると。この点が実に大きな意味があります。
どういう意味かといいますと、こういう漁港を、実は駐車場の話も皆さんされませんが、普通、民間で駐車場を整備するとなった時にはものすごく大きな投資が必要だったりするのですが、漁港というような、ある種、遊休した土地が使用可能になると。それがこういったことにより、実は漁港が地域にとって最大の資産であるということを改めて私は認識をしました。そういった意味で、海業の姿は多様ですが、実に共通したものもそこにはあることを感じました。
関 ありがとうございました。
事例をポイントでまとめていただきました。
それでは、最後のパネラーさんになります。大変お待たせしました。水産庁計画課の河野大輔さんです。今回の水産の施策として海業ということが位置付けられたわけですが、その背景や、水産庁さんとしての海業のどのようなところを期待しているのかというところ、また、海業を進めるに当たって、漁港施設の有効活用やそのための規制緩和も非常に重要になってくると思いますので、その辺りについてもお話をしていただければと思います。
では、河野さん、お願いします。
- 河野 大輔氏
- 水産庁 漁港漁場整備部計画課 課長補佐
河野 水産庁計画課の河野です。本日は、水産庁の海業の推進の施策につきましてご紹介させていただく機会を頂きましてありがとうございます。
それでは、水産庁で海業を位置付けた背景や漁港の有効活用につきましてご紹介したいと思います。
水産庁の使命としまして水産の健全な発展というものがあります。そのため、水産業の基盤であります漁村を振興していく必要があります。しかしながら、その漁村では、左のグラフに示すとおり、全国平均を上回る速さで人口減少が起こっていますし、高齢化が進行して活力が低下している状況です。
一方で、漁村の交流人口はおおむね2,000万人で、これは右肩上がりとなっています。令和2年にはコロナの影響で若干減少してはいますが、それでも減少幅はそれほど大きくはなく、逆に密を避けるために漁港に釣りに来るといったような現象も起こっていまして、大きなポテンシャルを有していると考えています。これは、人々の価値観が変わってきているということを示していると考えていまして、豊かな自然や漁村ならではの四季折々の水産物、伝統文化、親水性のレクリエーションなど、地域資源の価値や魅力がますます注目されて国民のニーズが高まっていると考えています。ですので、それを生かした海業を推進することで、地域の所得向上と雇用機会の確保を図るということが重要だと考えています。
その海業を漁港を核として行っていってはどうかと考えています。漁港は全国で2,780あります。漁港はご承知のとおり、水産業の発展と国民への水産物の安定供給を図るための基盤で、これまでその時代の要請に応じながら計画的に整備を行ってきたところですが、水産資源の減少、漁業者の高齢化、人口減少が進み、漁船数もピーク時と比べると半数以下になっているというような状況です。そのため、地域の漁業実態に合わせまして、漁港施設の利用を再編、適正化することで余裕を生じるエリアも出てきています。そうしたエリアを活用して、海業の場、地域の雇用や所得向上を図る場として最大限に活用していってはどうかと考えています。
漁港は狭隘な漁村地域におきまして、静穏な水域と平坦な用地が確保される海洋資源の利活用を行いやすい場だということでわれわれとしては海業に適している場だと考えています。
海業につきましては、今年3月に閣議決定されました水産基本計画、また、漁港漁場整備長期計画におきましても重点課題として位置付けられています。
水産基本計画においては、地域の理解と協力の下で地域資源と既存の漁港施設を最大限に活用した海業の取組を一層推進することで、水産業と相互に補完し合う産業を育成すること、また、海業の推進に当たりましては、民間事業者の資金や創意工夫を生かして新たな事業活動が発展、集積するように漁港において長期安定的な事業運営を可能とするための新たな仕組みの検討を進めるとされています。
また、漁協漁場整備長期計画におきましては、漁港における海業などの関連産業を集積していくための仕組みづくりや、また、漁港において釣りやプレジャーボート等の適正利用に当たりましては、駐車場の受け入れ環境の整備だとか関連団体との連携によるマナー向上、ルール作りを進めるとされています。
また、併せて、成果目標としまして、漁村の活性化により都市漁村交流人口を今後5年間でおおむね200万人増加させる、また、漁港における新たな海業の取組を新たにおおむね500件展開するというような目標を定めているところです。
こちらは、令和2年に漁港管理者さんに対して意向調査を行った結果になります。
4分の1の管理者さんが「漁港の未利用エリアの活用促進をしていく必要がある」と認識されており、そのうち、具体的にどのような取組に漁港活用が期待されているかということを集計したものです。水産食堂、直売所、漁業体験などの取組が一番多くて、次いで、水域・陸域を活用した増養殖という結果になっています。
漁港の有効活用については、そのための実践的なノウハウや事例を取りまとめた漁港施設の有効活用ガイドブックを令和3年に取りまとめ、水産庁ホームページに掲載しています。そこで取り上げている事例につきまして、幾つか紹介させていただきたいと思います。
こちらは石川県志賀町の富来漁港の事例です。ここでは漁港の静穏水域を利用し、定置網で漁獲したサバを蓄養して、漁獲量や市況を確認しながら出荷を調整しています。また、漁港内の補助用地、これは国庫補助事業を使っているため、飲食店・販売店をオープンするということはできなかったので、財産処分を行って、県の単独用地と交換することで、回転寿司屋と直売所を漁港内に設置して、蓄養をした新鮮な魚介類を来訪者に提供して漁港来訪者の増加や新たな雇用、漁業者の所得向上を実現されている事例です。
こちらは、北海道木古内町の木古内漁港の事例です。ここでは、漁船利用が減少した漁港の水域を活用して、実入りの少ないウニを移植、放流して、2カ月程度給餌して、実入りを改良させる実証実験を行っています。餌には廃棄予定の昆布の根の部分を使ったりしておられます。漁港内の静穏海域を活用した取組ですので高齢者にとっても安全な就業環境となりますし、観光客にウニ取り体験をさせたりして、にぎわいの拠点にもなる取組だと考えています。
こちらは、広島県福山市の走(はしり)漁港の事例になります。ここでは、水揚げ量が減少して未利用となっていた加工場用地などを活用して、広島県さんが公募をかけて民間事業者がスジアオノリの陸上養殖施設を設置しました。その結果、人口430人余りの島に新規雇用が生まれ、管理者としても施設使用料が増加して、漁港の管理コストが低減しているというものになります。
こうした漁港施設の有効活用について、これまでその規制は緩和してきています。具体的には漁港の水域、公共空地や用地を含む漁港施設の占用許可の期間、それぞれ1年と3年でしたが、占用許可の期間が短く、継続的な事業として実施するには収支計算が立ちにくいというような状況もありましたので、その期間を10年以内に延長しています。また、漁港法37条の貸付けの対象となる施設が加工場施設、用地に限定されていましたが、漁港施設の機能高度化のためには民間事業者のノウハウ等の活用が必要ですので、貸し付けの対象に陸上養殖施設やプレジャーボート保管施設、その用地につきましても対象としたところです。
また、貸し付けの対象となる漁港の取扱数量が1,000トン以上の漁港に限定されていましたが、それに満たない漁港においても民間事業者のノウハウを生かして機能高度化ができる漁港が存在していましたので、100トンに引き下げています。また、長期利用財産で整備から10年を経過した補助対象財産を社会情勢の変化などで地域活性化を図るために利用する場合には漁港施設用地は補助金返還の緩和措置の対象外だったのを用地についても緩和して直売所等を立地しやすくしています。
説明は以上になります。ありがとうございました。
2海業に求められる連携の形
関 河野さん、ありがとうございました。
海業施策の背景と位置付けということを解説していただきました。
今までの皆さんの話を総合してみますと、これからの海業を考える際、海業というのは今までもずっといろいろなところでやってきたのですが、これからは今まで以上にもっと多様な人たちが関わるという形になってきているというのが、これからの海業の特徴、ポイントなのではないかなと感じました。そして、婁先生がおっしゃっていたと思うのですが、いろいろな人たちと連携する際に、その連携し合う人たちが互いに補完し合う、ウィンウィンの関係をつくり上げていく、このこともまた重要なのではないかなと感じました。
そこで、海業に求められる連携の形ということについて話を進めていきたいと思います。
まず、ブルーパーク阿納さんですが、民宿組合さんがどうやってその事業を立ち上げていったかという経緯や課題、観光協会や漁業者等さまざまな分野の人たちとの連携の中で、役割分担をどのように決めているのか、課題はどのようなところにあったのか、あるいは、どのような効果があったのか、お聞きしたいと思います。
広田さん、よろしくお願いします。
広田 そもそも宿泊客の減少が要因で、そこそこ潤っているところもあれば、かなり苦しくてちょっとやばいなというところもありました。地域内で民宿を廃業するようなところが出てくると地域全体が低迷してしまいますので、何とかお客さんを呼んで収入を上げようという中で、地区内の14件の民宿で新たに体験民宿組合をつくり、教育旅行を呼び込もうという活動を始めたのです。
割と特異な例かもしれませんが、民宿もしていますし、ほとんどの家が養殖もしています。漁業組合員でもあり、観光協会にも加盟しているということで、他業種の人と連携するというよりはもう自分たちの中で全てそろっているような状況で、その点では割とスムーズに話は進んでいったのではないかなと思っています。
組合を立ち上げた時に問題となったのはお金の問題で、これも阿納地区の中の養殖の組合や、少し資金に余裕のあったところからお金を貸してもらってそれを使わせてもらってやったのですが、それもほとんど組合員の自分たちのお金を中でぐるぐる回しで使ってやったようなことでしたので、それも割と何とかなりました。
初めてやることでしたので、体験メニューをつくったり、先ほどの施設を整備したり、それから、このようなことを始めて本当に大丈夫なのかといった問題もありました。当初、観光協会は市役所の中に事務局がありまして、観光協会というよりももう小浜市のほうに最初は相談したような形になりますが。
最初は観光協会のほうはあまり乗り気ではありませんでした。成功するのかということで、ほとんど外部からの協力なしに自分たちで進めていきました。
最初は、小浜市と奈良市は姉妹都市ということもあり、市役所から奈良のほうに連絡を取ってもらい、自分たちで出向いて出向宣伝のような形で出向いていって少しずつ広げていって現在に至るという感じです。ですから、自分たちでほぼ全てやって、後から行政側がついてきてくれたという形です。
関 ありがとうございます。
でも、そのような地域というのは多分多いですよね。一つの地域の中で自治体の人と漁業関係の人と農業関係のグループとみんなメンバーが重なっているというのは結構あるかと思います。そのような中で、とにかく自分たちで頑張っている姿を見せて、市役所とか行政なども協力体制に入ってくるように頑張ったということですね。ありがとうございます。
次に、「いけすや」の土屋さんにお伺いします。「いけすや」は漁協直営の食堂ということですが、計画の当初から沼津市さんや6次産業化アドバイザーさんの協力というのが強かったと思うのですが、こういった支援を受けてこられた経緯について知りたいと思います。支援は受けてもやはりイニシアチブは漁協さんなり土屋さんのほうが握っていると思うのですが、支援を受けつつきちんと主導権を握るというこつといいますか、何かあればお願いします。
土屋 当店のオープンに当たっては漁協という枠だけではやはり世界が狭く、マーケティングについては全くノウハウもない私たちでしたので、長く交流のあった沼津市さんにも声をかけ、また補助金などを利用する関係で相談していた観光を担当している方からもアドバイザーの方を紹介していただきました。アドバイザーの方には最初から入っていただき、どこにターゲットを置くか。何が本当にお客さんに必要なのか、教えてもらいたいこと、伝えたいこと、そのようなことが何かをいろいろと話し合って、そこで進めていきました。報道関係のこともそうですし、私たちだけではできなかったことまで、いろいろなことを助けてもらって一緒にやってきていただきました。漁協直営の店ということですので、やはりもちろん行政の方も一緒でしたが、うちの組合の役員さんや漁師さんも入っての話し合いを行ってきました。
あとは、沼津市さんと協力し合って、今でもいろいろと行政とは持ちつ持たれつでやっていますので、常にお互いに共有することも大事だというのは感じます。アドバイザーの方には7年たった今でも続けていただいていまして、私のほうも不安になるとその方に相談させていただけますので、今、何に困っているのか、何をしたいのかをお伝えして一緒に考えていただいて、今、世の中というのはこうだとか、そういうことを教えていただきながらやっています。
関 ありがとうございます。
今、持っている課題などを明確にして、頼るところは頼る、やるところは自分たちでやるというめりはりについて聞けたかなと思います。土屋さん、ありがとうございました。
そして、養殖ですが、外部の民間会社を招いての養殖ということに関して地域の中でもいろいろと葛藤があったのではないかなと思うのですが、その辺りの経緯、地域の皆さんがどのように納得していかれたのか、それから、民間会社とともに地域振興を目指すに当たり、どのような点に気を付けているかという辺りをお願いします。
伊藤 民間との連携とか地域経済にどのようにしていくかということですが、これは繰り返しになるのですが、復興の終了によって建設業が縮小してきているという背景があり、地元の建設業者の協業を考えました。これまでの漁業の歴史から見ますとなかなか岩手県で簡単に養殖がうまくいくとは思いませんでした。
ただ、最初に漁業者側に説明をしたわけではありません。建設業者と町に説明しました。たまたま町会議長が友人だったということと、それから、復光社の社長が僕の友達でしたのでこの2人を呼んで「どうだろうか」という話をした時に、やはりその人たちは商売をやっている人たちですので「あっ、もうかる」と感じてくれたのだと思います。そこを理解して漁協を呼んでくれて「これをやろうじゃないか」という話がつきました。
ただ、何回も言いますが、行政はもう大手が入ってきてお金を落としてくれるということに対しては好意を持っているのですが、漁協はもうとてもではないが、怖いと。なので、「話は全部自分がつけるからそこは任せなさい」ということで、僕が通訳に入ったという経緯です。
大手とのwin-winの関係というところで、何がwin-winなのかということですが、地域で産業を創出すると大手のほうも設備投資が少なくて済みます。さらに地元だから小回りが利いて時間の短縮になります。そういったメリットがあるということをお互いに理解し合えれば、多分、「怖い」部分が解消し、時間の短縮であったり、そういうところに来るのだと思います。これは繰り返しになるのですが、4年ぐらいでここまで持ってきているので、モデルとしては短い時間でやっていると思います。
これからやはり2,000トンとなった時に種苗生産とか一次加工処理施設や新たな物流システムというのもみんなで考えながらつくっていくことが地域経済にとっては重要な視点かなと。最初は三重県からトラックを連れてくるといわれましたが、「それは困ります。それはこちらで用意しますから」というように、少しずつでも地元にお金を落とす仕組みをつくっていくということが大事かなと考えています。
関 ありがとうございました。
コーディネーターの力もあると思いますし、あとは話の持っていき方がうまくいったといいますか、計算していたものかもしれませんが、そう感じました。
あとは、やはり今のお話の中で大切だったのは、地元に還元する、地元のお金を落とす、地元を重視する視点がゆるぎないというところだったかなと思います。ありがとうございます。
今度は地元自治体の立場から三浦市さんにお伺いしたいと思います。海業の「うらり」というのは第三セクターですよね。そこから始まっていると思うのですが、もう一つ、今出てきた二町谷地区の開発というのは、これは民間の力を活用して地域振興をするという方向だと思います。こういった民間活力を導入するに当たって気を付けた点ということについて教えていただきたいと思いますし、その課題というところがあれば、その課題についても少し触れていただきたいと思います。
鳩野さん、よろしくお願いします。
鳩野 三浦市は、今、ご紹介にあったとおり、民間との連携という点では三浦海業公社とあとは二町谷の海業振興、海業のプロジェクトが動いているのですが、まず、三浦海業公社のほうにつきましては、もともと海業の創成期に市の行政の柱となる総合計画に海業振興を位置付けまして、その後に海業公社を立ち上げるということを位置付けてきました。その背後にあったのが、海業を推進するという市の行政の補完的役割を期待して海業公社を立ち上げたということがあります。先ほどの例で紹介したとおり、海業公社につきましては、「うらり」を管理運営して、「うらり」が地域の観光客の集客の拠点となっているような状況です。
もう一つ、今現在動いている二町谷の海業振興プロジェクトですが、こちらについては、市と業者が協定を結んで役割分担の下で推進しています。いわゆる公民連携、PPPという手法を使っています。冒頭にも紹介しましたとおり、二町谷地区は漁港区域内で水産関連施設の用地として埋め立てを行って、その土地を分譲によって事業費を回収するというスキームだったのですが、その事業の遅れ等々もありまして、その需要が見込めないという状況になりました。それで、企業誘致をしている中で海のロケーションを生かした土地利用ができるならば、例えば、リゾート事業とかそういったもので需要があるのではないかというようなものが見えてきた次第です。
そうした中で、民間事業者への分譲を前提に、できるだけ幅広い需要を喚起できるようなコンセプトを考えて、事業者を募集しようという方針になりました。そのため、市内部とか地域再生計画を検討する時にコンセプトをそのような条件で考えてきたわけですが、やはり漁港区域内というところで、ポイントが3つあったかと思います。
一つが、漁港区域内の埋め立て地ということで、漁港機能との連携を図り、総合的な水産業の振興を図れるようなプロジェクト、コンセプトであることです。
もう一つが、海側の広大な土地ですので、そのロケーションを生かせるようなコンセプトであることです。
もう一つが、公民連携ということで市側と民間がそれぞれ得意な分野を担えるようにすることです。特に民間というのは、土地利活用についてはいろいろなアイデアがありますので、できるだけ幅広いコンセプトを設定したいということが市側としてはありました。そうした中で、海を資源とし、海が持つ多様な価値と潜在能力を経済活動の対象とする産業群や業種の集まりの総称を示す海業というのがこのコンセプトとして適切であろうということに至ったわけです。
二町谷地区については、事業が推進するまでいろいろとあったのですが、関係者の検討の中で海業を新たに意義付けできたことが一つの工夫点といいますか、事業推進のポイントではなかろうかと考えています。
関 ありがとうございました。
今、4人の実践者が海業を進める中で、それぞれ連携する状況や、相手であるとか、それぞれ異なっているわけですが、その中でどのように連携を行っているのかという状況について解説をしていただきました。
今の4例のお話も踏まえて、婁先生が連携についてどのようにお考えでしょうか。お願いします。
婁 今、連携が実はあちらこちらの場面でキーワードになっています。ある意味、現代社会の中で経済の競争力を上げるとか、あるいは社会の問題を解決する上で連携というのをしないといけないといわれています。
今日、この海業振興というような一つの経済現象というものについて連携という話をしていただきましたが、そもそも連携とは何かということについて少しだけ私の理解を申し上げたいと思います。
連携というのは、よくいわれるのは、ある共通目的のために関係者同士が行う継続的な取組というふうに定義できると思います。継続的な取組ということは、つまりスポット的な取組というものとは違うもので、継続的ですよ、共通目的がありますよということです。実はその目的はいろいろとあるのですが、商品づくりやメニューづくり、コンテンツづくりだったり、あるいは、今、三浦市の場合はそれこそ投資というものですね。資金調達、投資というものでの連携というものがあります。
よくわれわれ連携というものを分類する時には水平的連携と垂直的連携という2つの軸があるのですが、水平的連携というのは、実はブルーパーク阿納の事例はまさに漁家民宿を経営されている漁業者の皆さんが横の連携を、これは実は一番肝だと思うのです。個人がやるのではなく、連携をして対処すると。
それから、垂直的連携でいうと「いけすや」が、あまり詳しくは紹介されていませんが、肝になるのは養殖漁業者との連携です。これが商品を仕入れるという意味での肝になっていたかなと思っています。
大槌の事例も垂直的連携に近いかなと思っています。いろいろな分類が可能なのですが、ただ、分類がいろいろと違っていても、タイプが違っていても、やはり連携の紐帯、関係者同士をつなげるひもが実は結構面白いことに割と皆さん共通しているのがビジネスモデルだと思うのです。よく紐帯として2者の連携をつなげるのは、例えば、系列化してしまうとか出資してしまうとか、あるいは、契約、協定を結ぶということがさっき話に出ていました。それと同時に、人的交流、あるいは、協調的行動とかいろいろな紐帯があるのですが、特に協調的行動、協定契約というのは割と弱い連携だと思うのです。この弱い連携を強くするためにはビジネスモデルを構築するということが一番有効だというふうにいわれています。それは要するに関係者がウィンウィンの関係ですね。共益、共に利益を受けられる関係というものがいわれています。あるいは、互酬性というか、お互いにとって利益があるということ。だから、一方が一方から利益を分け与えてもらうのではなく、連携を通じてお互いにとって実はメリットがあるというようなところが肝なのですね。そうしないと長続きはしないということです。
大槌町でやられている事例はまさにこういった形で、地域でいかに利益を循環させて、その上でお互いにとってメリットがあるという仕組みづくりをされているのかなと思います。
もう一つ、連携を考える時に大事なのは支援だと思うのです。連携の仕組みをつくる時にどのようなきっかけで誰がどのようにあれをするかというのが実はよくいわれるものなのですが、この中で行政による支援というのは大事であるということがあったり、実は外部の専門家というものが非常に大事であるというふうに指摘されています。そのような意味では、大槌町でそれこそ伊藤さんが果たされている役割、地元出身ですが、外部の専門家として関わったということで、あまり皆さんとは利益相反といいますか、利益関係がないというようなことで皆さん言うことを聞いてくださるということがあるのかなと思っています。
そこは、多分、連携をする上でポイントになるかなと強く感じました。
3海業のマネジメント方法 ~継続して発展させるために/地域のやる気を維持するために~
関 婁先生、ありがとうございました。
それでは、次のポイントとして海業をうまくマネジメントするということを考えていきたいと思います。海業に限らず全てのことに対してそうなのですが、継続性ということは非常に重要だと思います。ここでは海業それぞれがされている活動を継続するために何が大事なのかなということをお聞きしていきたいと思います。
1つ目としては、海業に実際に携わっている皆さんがその活動を継続して発展させるために必要だと思っていることは何かということ、それからもう一つは、継続をするためにはそれに関わる人たち、あるいは地域のモチベーションということが非常に大事だと思うのですが、地域や関わる人の思いややる気を維持するものは何なのかということ、その2点を伺っていきたいと思います。
まず、ブルーパーク阿納の広田さん、お願いします。
広田 うちのブルーパークは、おかげさまで今は始めてから15年間ぐらい継続して順調に活動をさせていただいているのですが、やはり継続していく上では毎年お客さんに来てもらわないといけませんので、特にうちの場合は中学校の教育旅行が中心なのですが、必ず来てもらった後には組合員で手分けをして、それぞれの学校さんに訪問させていただいて、お礼のあいさつも兼ねながらいろいろな問題点や要望などを小まめに聞き取るようにしています。そのおかげもあってずっと10年以上来ていただいている学校さんもありますので、そういったアフターケアといいますか、やはり心のこもったおもてなしをするためのきっかけづくりといいますか、そういったことで学校のほうを回って挨拶をするようにしています。
あとは、続けてやっていく上でやる気を維持していく、やる気を出すこつというのは、まず考えられるのは収入アップということだと思います。
おかげさまでうちのブルーパークは利用者がだんだんと増え、そのおかげで今度は、組合員がそれぞれ体験活動にも参加しているため、疲労困憊しているという状況になってきて、人手不足ということもあり、かなり不満が出るようになってきました。その上でどのようにやる気を維持していくのかということですが、これも非常に問題になって難しくなっているのですが、去年当たりから近くの違う地区の民宿の女将さんに手伝いに来てもらったり、地元の県立大学の学生さんにカヤックの手伝いに来てもらったりということで外部から応援をもらって、少しでも組合員の負担を減らすような努力もしています。
収入が上がるのもいいのですが、疲れがたまってきて精神的にも疲れてくるといけませんので、その辺のバランスをうまく取っていくということがこれから大事になるのではないかなと思います。
関 ありがとうございました。そうすると、この海業を継続していくためにやっていることは、そんなにすごく特別なことではなく、日々の積み重ねでお礼をしたり意見のフィードバックをしたりという地道なことの積み重ねということなのでしょうか。
広田 はい。そうだと思います。
関 ありがとうございます。人手不足で外部の応援ということで、でも、そのような応援に入ることでまたちょっと自分たちが違う見方をされて、頑張らなきゃと思うこともあるのかもしれませんね。
広田 はい。
関 ありがとうございます。
次に、「いけすや」の土屋さんにお伺いしたいと思います。同じ質問です。よろしくお願いします。
土屋 うちのお店は養殖マアジをまずPRすることから始めて、先ほど婁先生もおっしゃっていましたが、「養殖業者さんを中心に元気になってほしい。そうなっていくことが目標だ」としてやっています。養殖マアジは1年を通して旬である、なくなるということは全く考えていないということでスタートしたのですが、今現在、コロナの環境からどんどんと変わっていって、昨年からこの時期は、メニューを養殖マダイに変更しての提供となっています。そのようなことも養殖業者さんと連絡を取って今の状況を把握してもらったり、あとは、今の状況を私たちも知ってということで、このような状況になったおかげで養殖業者さんとのつながりは前よりも深まったかなと感じています。
養殖業者さんとの密な話し合いはこれからの課題の一つではないかと思っています。話し合いをすることで、漁師さんも一緒にやっているという気持ちを持ってくれ、関わりが深くなったように感じています。
あとは、地域の人たちもそのような状況を把握すると声かけなども変わってきたり、うちのお店の場合、地元の商品を置くということをしていますので、地域のお店のものがあったり、そうするとそこのお店にもうちの情報を流したりということでそのような連携を取ることで地域にお客さんが来てくれる、イコール、地域が盛り上がる、そのような気持ちでやっていくことが大事なのかなと思っています。
私たちで何とかしようとしても分からないことだらけですので、やはり先ほどあった支援の方の力を借りてアドバイザーの方にも相談をしつつ、いろいろな方の情報を得て進めていくことが大事なのかなと思っています。
関 ありがとうございました。危機感を地域で共有することにより、モチベーションにつながっていっているという感じを受けました。ありがとうございます。
次に、三浦市の鳩野さん、よろしくお願いします。
鳩野 三浦市では、先ほど紹介をした三崎漁港の三崎地区を中心にしてさまざまなプロジェクトが動いています。単に海業振興プロジェクトだけではなく、国の特定漁港漁場整備計画に基づいてマグロ用の超低温冷蔵庫の整備、加工場の整備などに着手をしているところです。
そういった中で海業をうまく発展させるには、行政はプロジェクトをマネジメントする必要があります。そのために、地区全体の魅力を高めるべく、三浦市では関係者と話を交えながら三崎漁港のグランドデザインを策定しています。皆さんが同じ目線でやっていくということで、グランドデザインに基づきプロジェクトを進めていくという状況、体制をつくっているところです。
もう一つ、より細かなプロジェクトに目を移していくと、例えば、海業振興プロジェクトでは、その遂行の関係から、業者側から浮桟橋を設置したいという要望がありました。この場合、どうしても占用など、いろいろな問題があって、行政が関わらなければいけない部分があります。民間の意向を尊重しながら行政が得意分野で海業の取組を推進していく、そういった役割分担で海業を推進していくという部分があったかと思います。
もともと三浦市は財政力が脆弱なところで、海業振興における民間活力の導入だけではなく、官民連携、PPPの活用を積極的に行っています。その中で重視しているのは、民間が実現したい事業をできるだけ市のほうで手助けしていくということです。
当然、漁業が盛んなところですので、水産関係団体や漁協その他管理者、県、あるいは、国といったところの調整も生じてくるプロジェクトなのですが、市ができるだけ調整に当たっていく、その上で民間業者ができるだけやりたい事業をやれると。公民が連携して協議をしながら双方のメリットを最大化させるような事業の構築ができるように、効果的な事業展開を実現するというところで、民間業者のやる気を引き出すというよりは、双方が協力しながらやっているところがあります。
関 ありがとうございました。三浦市さんの場合は、ある程度、市が引っ張っていくという形だと思いますので、その中でどのように民間を生かすか、行政と民間との調整など、三浦市さんならではの課題もあるのかなと感じました。
次に、伊藤さん、お願いします。
伊藤 問題点と課題と書いたのですが、時間の問題も含めてですが、地域漁協と企業のスピード感のずれということになります。
実は来年度から免許の更新ということで、10月に県のほうから意向調査があり、それまでに町内の組合の理事会を乗り切らなければならないということがあったのですが、理事会の1週間前ぐらいに電話がかかってきて「説明ができない。延ばします」と。「えっ? 延ばす? 5年延びんだよ。大丈夫?」と言ったら「大丈夫だ」と。何も大丈夫じゃないよというのがまず1点です。
それで、ニッスイ側は「役員会の10月20日の1週間後に社長説明があります。それで通らなかったら撤退します」という電話が僕にかかってきて、「漁協の中の問題だから、組合長、あんたが説明しなよ」と言ったら「できない」と言うのです。もうしようがないから自分が出ていって理事会の前に説明をして、どうやったらいいかということを説明させてもらって、ぎりぎり11月の県のディスカッションに間に合ったという格好になります。
だから、その辺の時間のずれがどうしても漁業者はそのようなことがあるのだろうと思います。
話は変わりますが、商品、加工業がないと知名度が上がりませんので、加工業者のコンテストをやったり、お祭りを開いたりということをやらないと地域の中でお金が回らないということがあろうかと思います。
先ほど婁先生から伊藤さんは他人でお金が関わらないからいいというご発言があったのですが、そのとおりで、社会実験で僕は勉強のためにやっているようなものなのですが、やはりそうはいっても漁業者も今はただ単にニッスイからの揚がりで少しお金が入っているのですが、やはり自分たち自身も養殖業者なり何なりに入っていかなければならないようなことになろうかと思います。そうしないと規模が大きくならないと思っています。
最後にも書きましたが、ここでももしかしたら漁協さんを中心に新しい企業連携を考えていかなければいけないのかなと。そこを少し進めていきたいと考えています。
関 どうもありがとうございました。
多分、漁業者さんはいい事例があれば入りやすいのだと思うのです。最初の人になるというのは少しハードルも高いのかなと感じます。
海業をマネジメントするという視点で今ご意見を伺ったわけですが、婁先生、今、いろいろな意見が出ましたが、それをまとめる形でその他にもあれば付け足しをお願いします。
婁 まとめるというよりは、これから海業を推進していく上で強調したいなと思うポイントを1点だけ申し上げたいと思います。
やはりマーケティング力というのが非常に大事だろうなということです。ブルーパーク阿納もそうですし、「いけすや」もそうですが、皆さん非常にマーケティング活動をされているのですね。海業の大抵のものはサービス業だろうなと思っており、顧客のニーズにいかに迅速に対応していくのか、あるいはそのPRをどうするのか、そういったマーケティング活動というものが絶対に必要だと思います。特に顧客ニーズの把握なのですが。
ただ、従来、われわれ漁業サイドに長くいて分かったことが1個あります。
漁業者は海の中で魚を見つけるのが非常に得意なのですね。それを見つけるためにはさまざまなシステムが開発され、漁業情報サービスセンターが存在するような、支援体制も整っています。
ところが、海業になりますと魚を見つけるというよりは、顧客のニーズを探しに行かないといけません。それが非常に苦手だというふうに私は思っていますし、あるいは、それを支援するような組織もないですよね。海業情報支援センターうんぬんというものはありませんので。あるともっといいなとは思うのですが、やはりない中でどうやってこのマーケティング力を獲得するかというのはこれからの大きな課題だなと思っています。
この問題を解決するために人材をどのように育成するか、あるいは、自分たちがノウハウをすぐ習得できなかったら連携を通じて獲得していくことが非常に大事になってくるだろうと思っています。
大槌町がこれから漁協として養殖業に進出するという場合は、当然、販売というものが出てくると。加工もそうですが、幸いにニッスイという企業にスキルがあって、そういった能力にたけているような企業がありますので、連携を通じて、そこのノウハウを習得するというのも一つの方法かなと考えたりしています。
いずれにしても、マーケティングというものは海業を推進する上で一つのスキルとして私たちは習得し、あるいは、支援していく必要があるだろうと感じています。
4海業に関する支援策
関 ありがとうございました。
ここで水産庁の河野さんよりこれまでのお話を踏まえたコメントと、あとは水産庁としての支援策について解説をしていただきたいと思います。
河野さん、よろしくお願いします。
河野 皆さま方のお話を伺いまして、ブルーパーク阿納さんの取組などは水産庁の漁港の有効活用の事例集にも優良事例としてご紹介しているところです。
われわれとしては優良事例、いい事例ですよということで紹介しているのですが、裏側には初めの計画作りをどうするかとか、あとは取組を始められた後も丁寧なご対応をされてここまで取組を継続されてこられて、大変敬意を表するところです。
「いけすや」さんにおかれましては、アドバイザーの支援の重要性についても勉強させていただきました。
また、大槌町の取組でも、民間との連携の在り方が非常に重要だなと。特に地元にお金がきちんと落ちていく仕組みをどのように評価して整えていくかということが非常に重要だと思いました。
そういった取組についてわれわれ水産庁としてもいろいろな形でこれからも支援をさせていただきたいと考えています。その支援の内容についてご紹介させていただきたいと思います。
主な支援事業として、(1)水産庁・農水省の主な支援策です。簡単にご紹介させていただきます。
左側の①②がソフト事業の支援策となります。
例えば、浜の活力再生成長促進交付金の中に地域の活力を図る地域人材の育成、それに係る調査に対する支援や、漁村における交流面での活性化のための調査計画、専門家派遣に対する支援、漁港機能増進事業におきましては、漁港の機能の再編・分担、また有効活用に関する支援などのメニューがあります。
また、②では、農産漁村振興交付金におきましては、農林漁業者、流通事業者がネットワークを構築して行う新商品の開発や販路開拓への取組に対しての支援、あとは、渚泊ビジネスの現場実施体制の構築、地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取組や専門人材の派遣に対しての支援といったものがあります。
また、ハード事業ですが、こちらの浜の活力再生成長促進交付金の中に、漁業体験施設の整備や地域水産物普及施設の整備に対する支援、また、農産漁村振興交付金の中に販売促進施設の整備に対する支援、また、釣りや磯遊びの施設や休憩所等の整備に対する支援、また、古民家等を活用した滞在施設や、農林漁業、農産漁村体験施設など、渚泊を推進するために必要な施設の整備に対する支援などといったメニューをご用意しています。
その他、補助事業以外に(2)海業を普及促進するための水産庁としての取組、支援内容について記載しております。
海業、海の観光振興の取組でありますので、農水省、水産庁だけではなく、他省庁の支援施策も幾つもあります。そうした他省庁の支援事業を含めた関連制度や支援策をまとめた支援策パッケージを現在作成中です。できましたら公表させていただきたいと思っています。
また、今、モデル地区を募集しています。モデル地区における計画作りや、あとは、民間事業者への情報提供のマッチング支援、また、漁港において長期安定的な事業活動を可能とするため、新たな仕組みの検討などを進めているところです。
これは海業の支援策パッケージの公表資料のイメージ図です。この支援策パッケージにおきましては、例えば、テーマごとに調査計画をする時に、または、ビジネス導入をする時に経営改善や人材育成をしたいと、また、観光業と連携をしたり、そういったテーマごとに、水産庁だけではなく、いろいろな省庁のもので海業推進に活用できる施策を今整理中です。
例えば、漁港内で海業を行う場の確保や既存施設の活用について漁港の施設の中でそういった海業を行う場合には、補助事業で整備した施設については処分制限期間の中であれば財産処分の手続きが必要になってくる場合もありますので、そういった内容を取りまとめて水産庁の担当者の窓口の連絡先等を記載しています。
あとは、観光業との連携をしたいというところですが、例えば、観光、地域づくり法人DMOが中心となってその地域の海業を推進していこうという場合ですとそのDMOの取組に対しての支援もありますし、また、地域の掲げる看板商品の創出を図るためにいろいろなコンテンツの造成から販売、開拓まで一貫した支援、これは国土交通省と観光庁のほうで支援策がありますので、こういったものが。これは一部抜粋ですが、そういったいろいろな省庁の支援策も含めて、今、整理中で、取りまとまりましたら公表したいと考えています。
今、海業をやっていこうという時にも、海業はいいものだが具体的にどのように進めていけばいいかが分からないなど、先ほどはマーケティングの話もありましたが、どのように進めていっていいかが分からないという自治体、漁協さんがおられましたら、今現在、海業のモデル地区を公募しているということがありますので、海業の事業化を検討している地区や海業の取組の拡大を検討している地区など、海業振興のモデル形成に取り組む意欲のある地区をモデル地区として公募しています。そこに対して水産庁として海業の事業化の検討支援を行っていきたいと考えています。
内容ですが、モデル地域におきましては、海業の事業化に向けた取組として、地区の現状や海業を振興する上での課題などについての現地調査や関係者ヒアリングのお手伝いであったり、あとは現地関係者によるワークショップなど、地区協議会を設立して運営するというお手伝いを。また、海業の計画作りですね。あとは、効果検証、このような形の支援を専門家の意見も伺いながらわれわれも一緒になって取り組むということを考えています。
応募主体は、漁港管理者、水産業協同組合、また民間団体ということとしています。
対象とする取組は記載のとおりですが、その他、これだけに限らず幅広く地域振興または水産業の発展のために寄与する取組だということが考えるものでありましたら、われわれとしては幅広く受け付けていきたいと考えています。
選定件数は、(1)から(3)の対象とする取組、ここに示す取組ですが、少なくとも1件以上は想定しています。これは応募状況によります。締め切りは来年1月20日と考えています。支援の具体的な期間は来年度1年間をかけて来年度で事業計画を策定してそれ以降は各地で個々で海業を展開していただくというようなことを考えています。
また、海業の推進に向けて漁港制度の検討を行っているところです。水産物を生産流通という従来の漁港の役割を引き続き発揮しつつも、これらと調和を取れた形で海業を推進するために必要な仕組みを今検討しています。
現在の漁港は海業による利用や民間事業者の活用には十分には対応できていないと考えています。例えば、事業用途であれば現在は水産業が中心ですが、将来的には海業による利用を、水産物の販売や漁業体験、宿泊等、財産処分なしで何とかできないかということを検討しているところです。
事業者につきましては、漁業者さんとか漁業協同組合、地方公共団体が利用の主な主体でありますが、将来的には民間事業者が海業を行う、民間事業者の利用についても考慮していきたいと考えています。
そのための課題として、漁港施設の利活用の在り方として行政財産である漁港施設を海業に活用する場合の考え方を整理する必要があると考えています。具体的には防波堤と釣り利用に多目的利用できるように、あとは流通関係施設を直売所や水産食堂で補完できるようにしていきたいと考えています。
また、漁業は基本的に地域漁業の発展につながるものである必要があり、漁業者と関係者の調整が十分なされる必要がありますので、そのためには漁業と調和して海業利用を計画的に促進する手法を検討中です。
また、民間事業者が安定的に事業を行えるように投資等の事業環境を整備する必要がありますので、民間事業者による漁港施設の活用を長期安定的に行うことができるような新たな仕組みを検討中です。
また、水産業の発展への寄与が見込まれる事業者を適切に選定する仕組みが必要ですので、事業者が海業を行うために本来備えておくべき要件を整理して、適切な事業の継続が見込まれる事業者を選定する手続きを検討中ですし、意欲がある漁協さんが海業を実施していくことが可能となるよう、事業の制限等についても見直しを検討中です。
こうした海業の推進について、与党の自民党では、海業の推進について検討がなされているところで、これまで2回、自民党の議連で水産政策推進議員協議会という議連があるのですが、それを元に海業振興専門部会が設置され、三浦市を地元とされる小泉進次郎議員が部会長となって海業の振興についてさらに推進していくための検討がなされているところです。
水産庁としましては、こうした動きと併せましてますます海業の推進に取り組んでまいりたいと考えています。
5質疑
関 どうもありがとうございました。
ここまで海業に関するいろいろな取組事例や特徴や課題、あるいは、連携、マネジメントといったポイントについて、制度的な支援などについてもお話を伺ってきました。
ここで、ご参加いただいている会場の皆さん、それから、チャットのほうにも質問が来ているのですが、質問を受けたいと思います。時間の関係で全部の質問を受けることはできませんが、これは絶対聞いておきたいぞという質問がありましたらご所属とお名前を言って、個別に誰に対する質問ということであれば誰々に対する質問ということも言っていただいて、質問をしていただきたいと思います。
会場の方、誰か質問はありますでしょうか。
質問のある方は挙手していただければ。
長野 長野漁港技術事務所の長野と申します。いろいろな取組、本当にそれぞれの取組、沿岸地域でやる全ての取組が海業ということになっていて、それを推進するための主眼が規制緩和と既存のいろいろな補助事業のパッケージということで説明を受けたのですが、この海業を推進するために、具体的な支援体制はこうだよと。具体的な環境整備、ハード、ソフト、それから運営についてどのように考えているのかと。事例を見ても過去の投資を利活用したということで、やはりあれだけの投資をしないと海業は成功しないのかと思われますので、これから取り組む人もそのような環境整備、あるいは運営についてどのような具体的な支援体制があるのかということを、これは水産庁にお答えいただければと思います。よろしくお願いします。
関 では、河野さん、よろしくお願いします。
河野 ご質問ありがとうございます。現在ある支援策としましては、先ほどご説明させていただいたような関係各省の補助事業やモデル地区としてわれわれが支援させていただくとか、あとは、検討の方向性ということで先ほど出していただきましたが、これは現在検討中で、現在はまだあまり具体的には申し上げられませんが。
一方で、これまで整備してきた施設をどのように活用していくか、そのための必要な施策にどのようなものがあるかというところについては、現在、支援策があるものもこれからつくっていかないといけないものも非常にあると考えています。
ですので、現在の支援パッケージを取りまとめてそれを活用していただきながら、海業を推進していくに当たってはいろいろな課題等がまたこれから出てくると思いますので、そういった内容につきましては、課題などを皆さまから提示していただいて、その実現に向けてわれわれのできることをやっていきたいと思っています。
なかなか歯切れが悪くて恐縮なのですが、皆さま方と一緒にいろいろな制度をよりよくして運営を推進していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
長野 よろしくお願いします。
関 ありがとうございます。
今の質問とかぶるところがあるのですがが、チャットのほうに来ている質問で、北日本港湾コンサルタントの三上さまより、これから海業に取り組もうとしている地域の人が相談できる窓口や機関はあるのでしょうかという質問も来ています。
河野 これも私でよろしいでしょうか。実は相談窓口を水産庁に設置して進めていきたいと考えています。これにつきましては、今、体制を構築中ですので、できましたら皆さんにお知らせして一元的に相談を受ける体制を取っていきたいと考えています。
その他、私は水産庁の窓口ということに現時点ではなっていますので、現時点では水産庁計画課の河野までご相談いただければと思います。海業のモデル地区の公募につきましては、水産庁計画課の私のほうで対応しておりまして、水産庁のホームページに連絡先等を公表していますので、そちらのほうにご連絡いただければと思います。どうぞよろしくお願いします。
関 ありがとうございます。河野さんです。ぜひ覚えてください。
他にありますでしょうか。あと、お一方ぐらいは。
大竹 元福井県立大学の大竹と申します。
先ほど婁先生がいみじくも皆さんには漁港があるのだと。そして、水産庁の河野さんも同じように漁港施設があるのだとおっしゃいました。河野さんは静穏海域をつくるために閉鎖的な施設をつくっているということを言われました。実は海業の基本はきれいな海なのです。まさにブルーパークなのです。それが必要でありまして、それを維持するためのものがこれらの事業にも含まれているのかどうかということです。小浜もそうですし、沼津もきれいな海です。両方ともきれいな海です。それを維持させるためにはどのような措置を考えられているのかを教えていただきたいです。
関 これは事例報告者の皆さまということでしょうか。
大竹 まず婁先生にお話を伺いたいなと思います。その後、事例紹介でどのように考えられているのか、教えていただきたいです。
関 では、婁先生からお願いします。
婁 はい。質問をありがとうございます。非常に重要に思っています。結構な皆さんが漁業は駄目になるので、では、海業に展開しましょうというお話が多分あると思うのですが、本当はそうではなく、本当は漁業が盛んなところ、豊かな海があるところ、それから、今、申し上げたきれいな海のところが大事なポイントで、そのようなところ、漁業が盛んであればあるほど海業をやっていただきたいと思っています。
先ほど私の報告の中でも申し上げましたが、海業を行う上では地域資源の管理は当然なのですが、環境をしっかりと管理しなければいけません。地域をしっかりとマネジメントしなければいけない、この3要素が絶対に必要だと思うのです。漁業は私たちの伝統的な産業として第一次産業と位置付けられるのですが、海業は6次産業というわけではありませんが、1次、2次、3次もあって、そこにはやはりきれいな環境、きれいな海でないとお客さんが来ない、楽しくないということになるのだろうと思いますから、そこもマストでやらないといけないと思っています。そのような感じでよろしいでしょうか。
関 そうしましたら、広田さんから順番にお願いします。
広田 われわれのところも非常に港も小さいのですが、その中でタイを放流して実際に釣っていただきますので、やはりきれいな海でないと釣る子どもたちも気持ち良くないでしょうし、そういった意味で、非常に狭い区域ですので、どうしてもタイをたくさん入れますとストレスもかかりますし、病気も発生したりするということもありますので、その辺はタイの状態をよく観察しながら放流するようにはしています。
あとは、またその海底のごみ拾いや漁港の外にあるわれわれの養殖場、特に海底環境に関しては気を使ってきれいな海を維持するようにこれからも努力していきたいと思っています。
土屋 きれいな海だということはあまり意識したことはありませんが、お店から見える真ん前の海は本当に、うちからは富士山も見えませんが、漁港そのもので、海があって、船があって、漁師さんがそこで仕事をしているという姿が本来の姿で、お客さまにはそれが一番のぜいたくなのかなと思ってお店ではご案内しています。
ただ、私たちもそうですが、やはりいろいろな方が来られるところが汚いと困るということを意識してそのようなところをきれいにしようとかというのはありますし、あとは、漁協としてうちは直営店のお店もやっていますが、ダイビングショップもやっています。そのダイバーさんたちが年に数回ですが海の掃除をしてくれたり、そのような海に対する意識は常にあるかなということは感じています。
関 ありがとうございます。
では、鳩野さん、お願いします。
鳩野 三浦市なのですが、今回の事例では特に触れませんでしたが、結構、修学旅行とかの受け入れも盛んで、その中で例えば砂浜海岸を使った地引網とか、SUPあるいはシーカヤックのようなものを小学生や中学生が楽しんでいるような海岸です。今後そういったところで海業を仕込んでいきたいと考えていまして、砂浜という地域資源は非常にポイントとなるところですので、当然、そこの機能は生かしていきます。市内でもやはり清掃活動というのは結構行われており、そういったところには力を入れていますが、逆に漁業が低迷していて、漁港のほうにはもう使われていない漁具などが放置されていて、むしろそちらのほうが問題かなと捉えているところです。
関 では、伊藤さん。
伊藤 2,000トンも養殖となると環境を汚すというのは漁業者の皆さんは大反対で、やはりそこをきちんと理解してもらうためには環境のモニタリングをしていきますと。今もしています。そういうことを理解してもらって漁業者の協力が得られたということです。
大竹 ありがとうございました。先ほど水産庁のほうからいろいろな事業を見せていただきました。その中に今おっしゃったようなことが入っているのかどうかということが私は見えませんでしたので、その辺を教えていただきたいです。河野さん、よろしくお願いします。
関 ちょっと難しいですが、河野さん、今、答えられる範囲で構いませんので。
河野 環境をきれいにするというところがあるとすれば、ここには書いていませんが、水産多面的機能発揮対策事業というものがあります。それは、漁業者さんたちが連携して水産業以外の漁業の多面的な効果を発揮させる取組です。それは全国各地で展開されていまして、例えば、藻場の保全活動などで、漁業というのは魚を取るだけではなく、海の環境を守るといった環境活動を守る取組をされていますので、そういった支援策が、ここにはありませんが、ありますので、そういったことも併せて活用していただければと思います。
大竹 分かりました。では、海業そのものでは環境対策はそれほどないと理解してよろしいのですね。
河野 水産多面的機能発揮対策事業で、先ほどご紹介させていただいたのは、直接的な海業で漁業以外で地域に所得をもたらす取組を紹介させていただいていますので、確かに水産多面的機能発揮対策事業には、ここには書いていませんでしたので、それも海業の取組の一つだと思いますので。海業は本当に幅広い取組ですから、われわれとしては申し上げた多面的機能発揮対策事業についても海業の取組の一環だと、支援策の一環だと考えています。
大竹 はい。分かりました。
関 よろしいでしょうか。
多分、海業ということを進める中には当然その地域の漁業、環境など、そういうものが根底になければ成り立たないのではないかなと思います。ただ、それをどのように事業の中で文言として表すかというのはまだ工夫が必要なのかもしれません。
また、多面的の事業のお話もありましたが、そのような事業もありますので、いろいろと水産庁などがやっている多様な事業も連携させながら見ていくことも必要なのかなと個人的に感じましたので、付け加えさせていただきました。ありがとうございます。
皆さん、たくさん質問もあるようなのですが、時間が押してきてしまいました。質問につきましてはチャットでもたくさん受けていまして、あと、会場の方は多分最後にアンケートを書く用紙があるのかと思いますので、質問が言えなかったがあるという方はそこに書いていただければと思います。その質問について、このシンポジウムの企画をした財団のほうでもいろいろとできる限りのお答えをして、また何らかの形で皆さんたちと共有したいということを承っていますので、質問のある方はそこにお知らせいただければと思います。
6最後に一言
関 最後に、パネラーの皆さんに一言ずつ頂ければと思います。
これから取り組もうとする地域に対するアドバイスでもいいですし、言いそびれてしまったということでも構いません。もう一回繰り返したいということでも構いませんので、一言ずつお願いしたいと思います。
では、今回は伊藤さんのほうから回っていきたいと思います。お願いします。
伊藤 やはり連携というところで誰かが真ん中に入らないと物事は進まない、それに尽きると思います。
河野 私は水産庁で海業振興を担当していますが、海業について民間事業者さんからのお問い合わせが非常に多く寄せられているところです。意見交換させていただきたいと思います。それだけ海業に対しての世間の関心や期待が非常に高いのではないかと感じています。
私は3月まで宮城県石巻市役所に出向していました。そこでも漁村が持つ地域資源、新鮮な水産物であったり伝統文化であったり、海洋環境に対して国民の皆さま方の関心は非常に高いものがあると感じていました。今、特にSDGsの取組が注目されていまして、14番目の目標であります海の豊かさを守ろうという開発目標がありますが、それとも相まって海や漁村に対しての関心が高まっていると非常に感じていました。
例えば、藻場の保全であったり、磯焼け対策への関心とか、あとは、海洋環境の変化に左右されない陸上養殖の適地はないかというような民間事業者さんからの問い合わせであったり、未利用魚・低利用魚を商材として扱いたいのだがどのように入手したらいいのか、あとは、コーヒーのCMで漁港を使いたいということ、あとは、新曲のプロモーションで漁港を使わせてもらえないかなど、現場にいると非常に多くのいろいろな声がかかって、海、漁村に関しての関心は高いなと感じたところです。
特にアプローチがあったのは、地域としてそのような取組をしている、動きをしている、例えば、陸上養殖を推進していくための勉強会をやっているとか、未利用魚・低利用魚の活用を何とかできないかと加工業者さんといろいろと連携して動いてPR商材を作ったりしていると。そういった地域としての動きがあれば、そこに対して民間事業者の方は、何年も関心があったが、地域としてそのように動いているのであれば自分も一緒に活動したい、協力をさせていただきたい、受け入れてもらえるのではないかという声を聞いたところです。
ですので、皆さん方もそうですが、やはり地域で動き出すということが大事だと思います。動いていれば共感する人が集まってくるのだと思いますので、一人ではできなくても多くの方が集まれば地域の動きとなって形になってくるのではないかと思います。ですので、まずは地域で商工会や観光協会さんが一緒になって勉強会をやってみるとか、一歩踏み出していただければ、大きな動きになっていくのではないかと思います。
ここにいる皆さま方も漁村総研さんも力になっていただけると思いますが、水産庁も当然協力させていただきたいと思います。ぜひ一緒に海業に取り組んでいければと思います。モデル地区も公募していますので、それに対しての応募をどうぞよろしくお願いします。
関 ありがとうございます。
では、鳩野さん。
鳩野 今回、ご紹介させていただきました二町谷の海業振興プロジェクトというのは、ホテルなどを建設することで国際的な経済拠点を形成しまして、世界中から富裕層を集めるというようなものです。いわば、三浦市に憧れを創出するプロジェクト、取組です。
三崎は、今、マグロで観光客を引き寄せているような、ある意味、三崎マグロのブランドが確立しているところなのですが、これと並ぶようなブランドイメージを確立、創出するのではなかろうかと。海業を通じてそういうブランド創出ができるのではなかろうかということを期待しています。
海業は多様な概念を包括するものだと捉えていまして、海を資源とするような取組は全て海業と捉えることで民間の活力、民間のアイデアを導入しやすいというように考えています。三浦市のように周りを海で取り囲まれているようなところは多くの海のロケーションがあると思いますので、海業には取り組みやすいところだと捉えています。今後、海業の展開が多くの漁港、漁村で広がるのではないかというように期待しています。
関 では、土屋さん。お願いします。
土屋 海業という言葉は私たちの中で浸透していなかったのですが、これからいろいろな方面に広がっていくのかなということを感じました。私たちのお店もそうですが、自分たちの世界だけではなく、いろいろな人たちの意見を聞きながら、自分たちがこうしたいという気持ちを発信しつつ、一緒にやる中で、地域のつながりができ、地域を盛り上げていくことがすごく大事で、まだまだ私もこれから頑張らなければいけないと感じさせられました。今日は本当にありがとうございました。
関 ありがとうございました。
そうしたら、広田さん、お願いします。
広田 われわれの事業もまずは漁港を整備していただいたところから始まりましたので、水産庁さんをはじめとしていろいろな支援事業があると思いますので、そういったのはぜひ活用していただきたいと思いますし、全国各地にいろいろな事例がありますので、われわれも始める時に視察に行ったり、勉強もしたのですが、そういったこともいろいろと参考にされるといいかなと思います。
あとは、関わる人全員が潤うように目標を明確にして、同じ方向をみんなが向いて進んでいけるといいのではないかなと思います。
関 ありがとうございました。
では、婁先生。
婁 漁業や水産業の研究をやっていて、外でいろいろと話をしますとどうしても指摘されることが1個あります。要するに漁業という産業のイメージです。3K産業の代表である、汚いとか言われて非常に腹立たしい思いをする時もあるのですが、海業というこの新しい産業はそういうわけにはいかないと思うのです。漁村の魅力を売り出す産業、あるいは、それこそ漁業というものをエンターテイナー化する産業であるとか、楽しいとか、ぜひこのようなイメージを植え付けてほしいと思います。なので、この3K産業にもじって4つのUをイメージしていただきたいなと思っています。
どういうことかといいますと、「漁村へ行って美しいな(UTSUKUSHII)」というUとか、そこを見て「うきうき(UKIUKI)するなという感動」とか、あるいは「魚を食べてうまい(UMAI)」というイメージを持たせる。そして、「行って実際に体験してうれしい(URESHII)」、この4つのUというイメージを「4U」、つまり「あなたのため」の「for you」というふうに言いたいと思います。
私は海業をずっとこの二十数年間研究してきていますますが、その原点は楽しいからです。この1点につきます。ぜひそういうイメージを植え付けていただきたいなと思います。
関 パネラーの皆さん、ありがとうございました。
私は、今、婁先生が言ったことと同じことを考えていて、やはり海業は息の長く続く活動であるべきだと思います。そのためにはやっている人が楽しくなければ続かないと感じています。もちろん、楽しいだけではないのは分かるのですが、楽しく取り組む背中を見て、次の世代の人たちがそこに入ってきて、また、その海業が、時代ごとに変わっていくとは思いますが、続いていくと。そのような流れが続いていったらいいなと感じました。
今日は散漫な話になってしまった部分もありますが、ぜひ会場の皆さんには今日の海業の話を持ち帰って地域の人たちと話すきっかけにしていただければと思います。
今日は長時間、どうもありがとうございました。(拍手)